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ゲノム変動に対する経世代交代による生存適応の機構解析(第2回)

理化学研究所

Takashi Kondo

Meis2だけでなく、他の遺伝子でも伝達比の偏りが存在する可能性があるのですね。実際に、染色体どうしの相互作用は観察できるのですか。

精子形成期において、物理的にMeis2領域と性染色体が重なることが観察されました。さらに解析を進め、他にも染色体どうしが相互作用している場所を複数、確認しています。これらの場所には類似のメカニズムがあると考えています。

興味深いのは、Meis2領域に欠損のない染色体も、同じ場所で性染色体と結合することです。しかもそれが別のバイアスを生んでいるという、さらに複雑なことがわかってきました。

欠損がなくても、性染色体と結合している。つまり、結合するかどうかと欠損とは関係ないということでしょうか。

欠損があってもなくても結合しますが、結果が異なります。欠損していない個体どうしを掛け合わせる実験を行ったところ、父方の染色体と母方の染色体を組み合わせて受け継ぐ個体が多くなりました。

これらの結果から、Meis2のエンハンサーには性染色体との結合をランダマイズするはたらきがあり、この領域を欠損させると、X、Yどちらの性染色体と結合するかがある程度決定されてしまう、と考えることができます。

ヒトにおいて、「伝達比のねじれ」が目に見えて発現しているケースはあるのでしょうか。

例えば男性に発症しやすい、あるいは女性に発症しやすい病気には、変則的な遺伝が関係しているかもしれません。性染色体に限らず、変異が2つ揃わなければ発症しない疾患において、その2つがなぜか揃いやすいケースも知られています。将来的には様々な疾病が、伝達比のねじれによって説明できると期待しています。

もう一つ付け加えると、伝達比のねじれによって隔世遺伝の原理を説明できます。おじいさん、あるいは、おばあさんの染色体がセットで孫に引き継がれる現象は、まさに隔世遺伝なのです。

 

染色体の高次構造と遺伝子発現の関係の解明に長年取り組んでこられた近藤先生。培った経験と直感力で、偶然見つかった「伝達比のねじれ」が染色体の高次構造に起因すると見抜いた
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