はい。Meis2という遺伝子座を対象に、サイレンサーを欠損させると何が起こるかを調べました。そうすると転写を止められず、暴走してしまうと考えられます。実際に多くのマウスは、過剰発現により死んでしまいました。ところが、サイレンサーがなくても転写が暴走せず、生き残る個体が現れたのです。
なぜそれが可能かというと、代わりとなる別のサイレンサーをプロモーターが見つけてくるためではないかと考えています。現在、その検証を進めているところです。DNAの状況と実際の表現型が一致していないため、この現象を「表現型の揺らぎ」と呼んでいます。
遺伝子の変異は、決して珍しいことではありません。DNAの中にはトランスポゾンと言われる「動くDNA断片」が多くあります。普段はDNAがメチル化されていてトランスポゾンは動けませんが、発生のときにはメチル化がいったん外れます。そうなると、トランスポゾンが自分のコピーを作ってDNAに挿入したり、そのときに周囲を削ったりするので、DNAが変わってしまうことは大いにあるのです。今回の実験は、そのような遺伝子の変異を人工的に再現したともいえます。
遺伝子の変異は、疾病や死亡のリスクを上げる一方で、多様性を獲得し、環境の変化に対応できる可能性を高めている。「進化」には、二律背反のメカニズムが内包されているといえる