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ゲノム変動に対する経世代交代による生存適応の機構解析(第1回)

理化学研究所

Takashi Kondo

遺伝子の発現には、エンハンサー、プロモーター、そしてサイレンサーが適切にはたらくことが必要なのですね。今回先生が発見された「表現型の揺らぎ」にも、それらが関わっているのでしょうか。

はい。Meis2という遺伝子座を対象に、サイレンサーを欠損させると何が起こるかを調べました。そうすると転写を止められず、暴走してしまうと考えられます。実際に多くのマウスは、過剰発現により死んでしまいました。ところが、サイレンサーがなくても転写が暴走せず、生き残る個体が現れたのです。

なぜそれが可能かというと、代わりとなる別のサイレンサーをプロモーターが見つけてくるためではないかと考えています。現在、その検証を進めているところです。DNAの状況と実際の表現型が一致していないため、この現象を「表現型の揺らぎ」と呼んでいます。

代わりになるサイレンサーを見つけられるかどうかは、偶然なのですか。

その場においてはおそらく偶然です。しかし、それが偶然でなくなって、常に生きられるようになれば、それこそが適応進化だといえます。実際に、ある系統のマウスが適応をして、Meis2のサイレンサーがなくても問題なく生きていけるようになっています。生物には、ゲノムの変異を補う仕組みが内包されているのです。

実験では人工的にサイレンサーを切除していますが、人間が手を下さない状態でも、同じようにDNAの変化があって、生物の進化を促しているのでしょうか。

遺伝子の変異は、決して珍しいことではありません。DNAの中にはトランスポゾンと言われる「動くDNA断片」が多くあります。普段はDNAがメチル化されていてトランスポゾンは動けませんが、発生のときにはメチル化がいったん外れます。そうなると、トランスポゾンが自分のコピーを作ってDNAに挿入したり、そのときに周囲を削ったりするので、DNAが変わってしまうことは大いにあるのです。今回の実験は、そのような遺伝子の変異を人工的に再現したともいえます。

遺伝子の変異は、疾病や死亡のリスクを上げる一方で、多様性を獲得し、環境の変化に対応できる可能性を高めている。「進化」には、二律背反のメカニズムが内包されているといえる

高次構造を持つ染色体が核の中をダイナミックに動くことで遺伝子発現のON・OFFが切り替わるプロセスと、進化の鍵となる、遺伝子変異に対する適応の実例についてご説明いただきました。次回は、異なる染色体が一緒に遺伝する現象の発見とメカニズムの解明について伺います。

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