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血中骨代謝マーカー変動予測に基づく骨量減少予防の個別化予測医療の実現(第1回)

名古屋大学

Shingo Iwami

マウスによる実験データだけではなく、ヒトの臨床データも解析されているのですね。

疾患モデルマウスは個体数が少ないため、収集できる実験データも少数です。それだけではデータサイエンスの材料として足りないため、障害者リハビリテーションセンター研究所が保有する、ヒトの臨床データを篠原先生から提供していただいて、解析を始めています。本研究では血中の骨代謝マーカーに着目しているため、臨床データの中でも比較的集めやすいというメリットがあるのです。

また、篠原先生の研究グループは、走行時や歩行時と同様のメカニカルストレスをヒトの足の骨に与えて、骨量の改善を図るシステムを開発しました。

メカニカルストレスとは、圧力や振動力などの刺激を細胞が受容することです。その刺激への応答を通して細胞はさまざまな機能を調節しています。つまり、加齢によって身体機能が低下した高齢者や、病気やケガ等で運動が困難な障害者であっても、骨量の増加や維持が可能になるのです。

本研究でもこのシステムを活用し、メカニカルストレスが骨に与える影響について各疾患モデルマウスで実験・検証し、骨代謝マーカーと骨量の相関関係を確かめていく予定です。

最終的には、個々の患者さんに対して、骨量の増加や維持に効果があるオーダーメイドの運動プログラムを構築できるシステムを目指します。

モデル駆動型アプローチとデータ駆動型アプローチを合わせることで、それぞれの長所を生かし、弱点を補っている

疾患モデルマウスの実験では、当初の計画から変更になった点もあったそうですね。

マウスにさまざまな強度で歩行・走行をさせる実験は、最初はトレッドミルを使用していました。ところが、問題が発生しました。OVXマウスにうつ病に似た症状が出てしまい、意欲が低下して走らなくなってしまったのです。

そこで、無理やり走らせるのではなく、自発的な自由運動が可能な回転車をケージに設置したところ、強制走行によるストレスが軽減されたのかもしれませんが、OVXマウスも運動するようになり、目的のデータがとれるようになりました。

また、当初は電気刺激によって跳躍させる実験も行っていましたが、どのマウスも刺激に慣れると飛ばなくなるため、跳躍運動に関しては一旦保留としています。

他にも、期待していた因子では思うような成果が出なかったり、その過程で別の有力な因子を発見するなど、実際にやってみなければわからないこと、実験によって新たに発見することが多々ありました。

予想外の結果や発見、軌道修正の連続なのですね。

そのような出来事が起きても、セコム科学技術振興財団は、研究者が「この因子の解析を進めたい」と希望し、それが優れた成果を出すと期待できるものであれば、研究計画の変更に柔軟に対応してくれます。以前、挑戦的研究助成を受けていたときにそのことを知ったため、今回も安心して研究を進めることができました。

セコム財団の助成制度は、研究者がより良い成果を目指して自由に研究できる、他にはない魅力がある

骨量が骨生成と骨吸収のバランスによって決まること、運動の効果が医療現場でも曖昧なままであることなど、わかりやすく教えていただき感謝いたします。次回は3つ目の目標「骨形成促進薬の開発に特化した骨形成の分子メカニズムの解明」や、先生が立ち上げられた異分野融合生物学研究室についても詳しくお聞きしていきます。

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