骨粗鬆症をはじめ、さまざまな病気の予防や健康維持に「適度な運動」
が有効であることは、多くの人がご存知でしょう。しかし「適度」と言われても、患者さんは困ります。その表現は科学的ではないからです。
名古屋大学
岩見 真吾教授
Shingo Iwami
骨粗鬆症をはじめ、さまざまな病気の予防や健康維持に「適度な運動」
が有効であることは、多くの人がご存知でしょう。しかし「適度」と言われても、患者さんは困ります。その表現は科学的ではないからです。
仮に、10人の患者さんが頑張って「毎日1時間の散歩」 を実行したとしても、全員に同じ効果は出ないでしょう。歩く速度やルートの強度──たとえば平地のみか、坂道や階段等を含むかは、患者さんによって異なるからです。
どのような運動を、どれくらいの強度で、何時間行えば、どの血中骨代謝マーカーの数値が変動して骨量が変化するのか。これは、まだ明らかになっていません。
骨粗鬆症に関する研究の多くは、治療法の開発です。運動と骨代謝に関する基礎研究はありますが、骨粗鬆症の予防や改善に効果がある運動プログラムの開発まで繋げる研究は、これまで行われなかったのです。
そうです。挑戦的研究助成では、荷重環境(2G)で飼育されたマウスのほうが、通常の環境(1G)で飼育のマウスよりも骨量減少が少ないことが確認できました。さらに最近の分子メカニズムの研究成果から、下肢に対して地面から瞬間的に衝撃が加わる運動が、骨量低下の抑制や骨量維持に効果があることもわかりました。つまり骨粗鬆症で多くみられる下肢の骨折の予防には水泳よりも、歩行や走行、跳躍のほうが適していると考えられます。
そこで、各疾患モデルマウスに対して回転車による自発的自由運動実験を行い、運動量と骨量の変化、血中骨代謝マーカー濃度との相関関係について解析を行いました。
たとえば、自由運動を始めたOVXマウス(閉経後骨粗鬆症の疾患モデルマウス)の2週間後、4週間後、8週間後、16週間後の、それぞれの走行運動量と骨量のデータを見ると、4週間後までは骨量に有意な変化は見られなかったのですが、16週間後には骨量低下の抑制効果が認められました。加齢によって低下するP1NPという骨代謝マーカーに注目したところ、運動量が多いマウスほど血中のP1NP濃度が高いこともわかりました。
また、閉経を迎えた50歳以上のヒトの女性の臨床データを解析すると、運動習慣がある女性は運動習慣がない女性よりも骨量が多く、P1NP濃度が高い傾向にあることも判明しました。