HOME > 研究者 > 林美加子先生 >「ヒト・デンタルバイオフィルムの次世代シーケンス網羅的解析に基づく制御法の開発」(第2回)

この研究は複数の新しい技術によって進められており、とくに次世代シーケンサーによる網羅的解析は、大量に産出されるデータの絞込みが大変だと聞いていますが……

幸いなことに、大阪大学には微生物研究所があるため、専門知識や解析のアイデアなどをいただきながら解析を行うことができました。一人では「恐らくこうだろう」「これで間違いない」という思い込みで、誤った方向に進んでしまう可能性が高かったと思います。専門家から助言を得られる環境があったことは、本当に幸運でした。

また、この一般研究助成に採択されたおかげで、解析に必要な機器やソフトウェアの購入、16SrRNA委託解析など、費用面の課題もクリアできました。助成金の使用計画に変更が生じたときも快く応じていただいたおかげで、新型コロナウイルス感染症による影響を受けながらも、ほぼ予定通り研究を進めることができ、心から感謝しています。

今後の予定について、お教えください。

歯周病患者のデンタルバイオフィルム解析を加速させ、これまで得た解析結果から、う蝕や歯周病の発症・進展に関わる因子の特定を進めていきます。そして、その疾患関与因子に対して抑制効果を持つ薬剤や物質を検索し、in situ デンタルバイオフィルムモデルと3DSを用いて効果を検討し、3DSによるデンタルバイオフィルム制御・抑制法の確定を目指します。

口は体の入り口です。口腔疾患の予防と治療は、ひいては全身の健康増進に寄与すると考えています。

2013年に、歯周病の病原細菌のひとつが大腸がんを引き起こす可能性があると報告され、口腔ケアと全身疾患の関係性が注目されましたね。

九州大学では歯周病菌が認知症に及ぼす影響について研究が進められていますし、大阪大学では小児歯科の先生が、20人に1人くらいの割合で、心臓血管に定着する特殊なミュータンス菌を持っていることを発見しました。医学と歯学の境目は、これからどんどんなくなっていくでしょう。

私もいつか、腸内細菌の専門家と共同で研究をしたいと考えています。歯学に限ったことではありませんが、安全安心の実現は、1つの分野で成し得ません。現在は人が集まることが難しい状況ですが、他分野との交流の機会があれば、積極的に参加していくつもりです。

一般研究助成の研究成果報告会・研究助成贈呈式で、さまざまな分野の研究者が行ったプレゼンに、とても興味を惹かれた

 全身の入り口である口腔で健全な状態が維持できるようになれば、ヒトの健康寿命はますます伸びると期待できます。3DSによるデンタルバイオフィルムの制御・抑制法が確立される日が早く来ることを心から願っています。お忙しいなか長時間のインタビューにお答えいただき、ありがとうございました。

Copyright(C) SECOM Science and Technology Foundation