HOME > 研究者 > 林美加子先生 >「ヒト・デンタルバイオフィルムの次世代シーケンス網羅的解析に基づく制御法の開発」(第2回)

コア・マイクロバイオームとは、何ですか?

ヒトが生まれたときに持っている口腔内細菌叢です。前回お話ししたように、ヒトの口腔は成長とともにさまざまな細菌に感染し、口腔内細菌叢が多様化していきますが、最初にどのような状態であったのかはわかっていません。デンタルバイオフィルムを適切にコントロールし、コア・マイクロバイオームの状態に近づけることで、ヒトの本来あるべき口腔状態に戻せるのではないかと考えています。

そのため、京都大学霊長類研究所と鶴見大学歯学部が共同で、ヒトに最も近い遺伝子を持つチンパンジーの口腔細菌叢に関する研究を進めています。また、準備研究の段階で100歳の高齢者4名のデンタルバイオフィルムを解析しました。健康で長生きな人のデンタルバイオフィルムは、成人したヒトが持つべき口腔環境の、一種の「お手本」になると考えたからです。

解析の結果、乳酸関連細菌であるレンサ球菌、ベイヨネラ、ラクトバシラス属の3種が、相対的に60%を占めていることがわかりました。健常者のバイオフィルムの解析結果とあわせて、健康維持に必要な細菌種や因子の特定を進めているところです。

100歳の高齢者(4名)の、デンタルバイオフィルム細菌叢メタゲノム解析

今後、歯科治療や予防歯科は大きく変わっていきそうですね。

昔は小さなう蝕でも「削って詰める」が基本でした。ですが今は、自然歯は可能な限り保存するという考えが広まっています。私も、初期のう蝕であれば削らず、通院を続けてもらって経過を観察し、ブラッシング等で進行を止めながら治癒させる方針をとっています。3DSによる治療方法が実現すれば、歯を削るような治療はさらに減っていくでしょう。

子どもの虫歯が以前より大幅に減っていることから、私はこれからの歯科医療は予防をより重視するとともに、治療のアフターケアと、介護現場におけるケアを手厚くするべきだと考えています。とくに高齢者福祉施設では常に人手が足りず、十分な口腔ケアができているとは言えません。そのため、多くの利用者が根面う蝕になり、進行して歯がなくなり、入れ歯が合わなくなっています。

前回のインタビューでも、根面う蝕患者のデンタルバイオフィルムを採取し、解析されているとお聞きしました。根面う蝕について、詳しく教えてください。

根面う蝕は、高齢者に多く見られる口腔疾患です。加齢や歯周病によって歯茎が下がると、歯根が露出してしまいます。すると、隙間ができて、磨き残しのリスクが高まります。さらに歯根部分にはエナメル質がほとんどなく酸に溶けやすいこと、進行するとすぐに歯髄に達してしまうことから、早期に適切な治療を施さなければ、根が折れて歯がなくなってしまうこともあります。

根面う蝕になる原因は、歯周病ばかりではありません。虫歯にならないように熱心に歯磨きをしすぎたために、強いブラッシングの刺激によって歯茎が痩せて歯根が露出してしまうケースや、認知症が進行して自力で歯磨きができなくなったために罹患するケースもあります。

一度歯周病に罹患した人は、高齢になると約9割が根面う蝕になると言われています。そのため、超高齢社会を迎えた日本においては、根面う蝕の予防と対処が非常に大切です。80代の約7割が根面う蝕に罹患しているという調査結果もあり、3DSで除菌をした後も、フッ素の塗布等の継続的なケアが必要だと考えています。

根面う蝕の疾患関与因子の解析は進んでいる。抵バイオフィルム効果がある物質を絞り込み、現役のうちに根面う蝕を3DSで治療する方法を実現したい
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