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健康長寿社会の実現に向けた新たな自己免疫制御療法の確立(第2回)

慶應義塾大学

Koji Hase

それでは、先生が発見されたiTfr細胞を誘導分化する化合物について、詳しく教えてください。まず、ひじょうに強いiTfr細胞誘導活性を示すものが見つかったとおっしゃっていた放線菌培養抽出液は、いかがでしたか。

放線菌培養抽出物には多くの天然化合物が含まれているため、まずは混合物を構成成分ごとに分けなければなりません。その成分に対してiTfr細胞誘導活性を評価し、さらに成分の絞り込みを繰り返して、活性成分を単離していきました。活性成分が認められた抽出液に2次スクリーニングを行い、細胞毒性が低く、iTfr細胞誘導活性の強い抽出液を複数選択して、活性成分の同定を試みているところです。

解析の結果が楽しみです。では、SCADs標準阻害剤キットのスクリーニング結果について、教えてください。

既知の阻害剤を集めた化合物ライブラリー(SCADs 標準阻害剤キットなど)からはiTfr細胞誘導活性を持つ16種類の化合物を同定し、その中でもとくにヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase:HDAC)阻害剤に着目しました。

HDACはアイソザイム(同一種類で同じ作用を持つが構造が異なる酵素)が11種類存在しますが、そのうちの一つを阻害すると、最も強いiTfr細胞誘導活性が見られることがわかりました。その際には、iTfr細胞の分化誘導の要となる転写リプレッサーBcl-6の発現率が上昇するため、現時点ではこの現象が重要であると考えています。

この発見をもとに、大阪大学の鈴木孝禎先生から供与して頂いたHDACアイソザイム選択的阻害剤(HDACi)は、経口吸収性が良い薬剤であり、細胞毒性も低いことから、新薬開発の有力候補となる可能性があります。

HDACiは、関節リウマチの症状には、どのような効果を発揮するのでしょうか。

薬としての効果を確認するため、関節リウマチのマウスモデルにHDACiをそれぞれ経口投与する実験を行いました。その結果、どちらも関節炎の発症が抑制されたことを確認しました。

さらに、免疫グロブリンG(IgG)や、TNF-αの血清中濃度の減少も見られました。IgGは長期間存在して抗原に対する免疫応答を担う抗体であり、関節リウマチの主な抗体もIgG型です。TNF-αは、関節の炎症や関節破壊の原因となるサイトカインです。つまり、HDACiは、iTfr細胞誘導活性を持つだけではなく、炎症抑制の作用もあることが示唆されたのです。

この成果をもとに、製薬会社と共同研究の契約を締結しました。現在は前臨床試験の実施に向けて、体制を整えているところです。

先生が目指していた、関節リウマチの新薬開発に近づいたのですね。

はい。ですが開発が順調に進んでも、人間の治療に使える薬になるまでは、まだまだ時間がかかります。薬理だけではなく、発がん性がないことや毒性が低いことを立証して、安全性を担保しなければいけません。さらに、点滴や注射ではなく、関節リウマチの患者さんが自宅で服薬できるように、経口摂取で効果が出るものにしなければなりません。そうした試験をすべてクリアして、ようやく健康な人を対象とした第1相試験(フェーズⅠ)へと進めるのです。

創薬はアカデミアだけでは実現できない。近年は大学と企業の共同研究、オープンイノベーションによって新薬開発を進めるケースが見られる
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