リステリアと同じグラム陽性菌であるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)について、インフラマソーム活性化の分子メカニズムを調べました。
まず、MRSAをマクロファージに感染させると、インフラマソーム応答に基づく炎症サイトカインであるIL-1βが産生されましたが、二本鎖DNAを認識する細胞内受容体AIM2を欠損したマクロファージでは、その産生量が減りました。また、IL-1βの産生に必要なcaspase-1の活性化や、caspase-1活性化に必要なASC speckの形成も後者では低下しました。
その一方で、同じ炎症性サイトカインでも、インフラマソームに基づかないTNFα(腫瘍壊死因子)の産生には変化が見られませんでした。
以上の結果から、MRSA感染においては、AIM2が菌の核酸を認識し、インフラマソームの活性化を誘導していることが明らかになりました。
続いて、MRSA感染においてAIM2インフラマソームの活性化が病態に与える影響について調べるために、AIM2欠損マウスにMRSAを感染させました。すると、インフラマソームに基づくIL-1βの産生は減少したのに対し、インフラマソーム非依存的なIL-12の産生には影響がありませんでした。
また興味深いことに、AIM2欠損マウスでは、野生型マウスに比べて臓器内の菌数が減少し、マウスの生存率が改善しました。このことから、AIM2インフラマソームが活性化することで、MRSAの感染病態が悪化することがわかりました。

MRSA感染マクロファージにおけるIL-1βの産生量(野生型とAIM2欠損型)(左)、MRSA感染マクロファージにおけるTNFα産生量(右)
はい。黄色ブドウ球菌感染において、ASCのリン酸化に関わるキナーゼを調べたところ、Aurora Aを阻害することで、IL-1βの産生量が減少し、インフラマソーム応答が特異的に減少することがわかりました。これに対し、TNFαの産生量には変化が見られませんでした。そこでリン酸化経路を調べたところ、JNKがAurora Aをリン酸化しており、Aurora AがASCを直接リン酸化していることがわかりました。
すなわち、MRSAに感染した場合は、活性化したAurora Aキナーゼが、ASC Y144以外のアミノ酸化をリン酸化して、インフラマソーム応答を促進していることがわかりました。

マクロファージにMRSAを感染させAurora A阻害剤を添加したときのサイトカイン応答
さらに、Aurora Aがどのアミノ酸をリン酸化しているのか調べるために、リン酸化予測プログラムで調べた上で、質量解析を行いました。その結果、92番目、100番目、105番目の3つのセリンがヒットしました。
つまりMRSA感染においては、JNK、そしてAurora Aキナーゼが活性化することで、ASCの複数のセリンをリン酸化してAIM2インフラマソーム応答を亢進し、感染病態を悪化させるという仕組みが明らかになったのです。
上記の結果を踏まえたうえで、Aurora A阻害剤によるMRSA感染の治療効果を検討しました。
まず、薬剤感受性の黄色ブドウ球菌(MSSA)に感染させたマウスに抗生物質のピペラシリンを投与したところ、全頭が生存しました。これに対し、MRSAに感染したマウスではピペラシリンを投与しても全頭が死亡し、治療効果が認められませんでした。
次に、MRSA感染マウスにAurora A阻害剤を投与したところ、臓器内の菌数が低下し、マウスの生存率が大きく向上しました。
以上の結果から、抗生物質の効かないMRSAに対しても、インフラマソーム応答に関わるキナーゼを阻害することでASCの病理的な活性化を防ぎ、インフラマソーム応答を抑制することで感染病態を改善できる可能性があることが示されました。