本来、光の減衰量を測定するためには、数百mからkmオーダー程度は必要です。デュッセルドルフ大学のシステムでは、鏡を使って光を往復反射させることで、1mのチャンバでも測定することができました。私たちは、鏡を使うかわりに、光導波路内を光が伝播すると戻る仕組みを作り、数百mからkmオーダー程度の長さに相当する光集積デバイスを実現しました。この仕組みの鍵となる、光の一部を戻すための機能素子を、光カプラーと言います。
光カプラーには、90nmのナノホールで構成されるナノピクセル導波路が用いられています。このナノホールのサイズは、半導体製作における極小加工限度にかなり近い値です。製作には、日本でも数台しかないとされる専用設備を使う必要がありました。また、このナノピクセルパターンはAIで設計しました。ナノピクセルは光を通し、光を導波路へと導き、また光を検出するフォトダイオードへと分岐させる役割を実現させることができます。AIを用いて光導波路を通る光の非対称分岐に成功した例も世界初です。この部分を担当した現在M2の学生嶋村君は、採択率が厳しいドイツの国際会議にて本件を発表することが決まりました。

光カプラー構造設計
カプラーのナノピクセルパターン設計には、Google社が開発した深層学習フレームワークを使用しています。まず数千パターンのナノピクセルをランダム生成し、光が循環するものをいくつか選んで深層学習させたうえで、より優れたパターンを予測していく、という流れになります。
実はこの関連技術は、私の息子が出場した中高生ロボットコンテストの選手に教えてもらったOpenCVという画像認識ライブラリに端を発しています。このコンテストは、全国で出場枠が20枠程度しかなく、採択されればロボット製作費を獲得できたうえで全国大会に出場できるというもので、運良く採択して頂きました。私も指導者として、企画検討段階から大会参加まで大きくかかわりました。
ちょうど同時期に「AIを使用して光集積回路を設計する」という発表を国際会議でも聞いており、大会で教えてもらった画像認識技術などから、AIでナノピクセルカプラーのパターンを設計できると判断し、実行することができました。
娘が入院したこと、九州大学に採用していただいたタイミングでデュッセルドルフ大学の記事を見たこと、そして息子のロボットコンテストでAI技術に触れたことなど、様々な偶然が積み重なり、今回の研究へと繋がりました。

浜本先生と、ハイメサ光導波路と光カプラーの説明をしてくださった学術研究員のキムさん