HOME > 研究者 > 浜本貴一先生 > 健康・安全モニタリングシステム実現のための小型呼気センシング用光集積デバイスの研究開発(第1回)

これまで健康状態を調べる検査方法には、血液検査や胃カメラなど、様々な方法が考案されてきました。しかし、その際に苦痛が伴う、結果が出るまで病院で検査をして数週間待つ必要があるなど、現状として、健康診断は一般人が日常的に気軽に受けられるものとは言えません。

日本はこれから超高齢化社会を迎えようとしています。年に数回の検査だけではなく、一般人が日常的に健康状態を知っておくことは、国民の安全安心な暮らしに多いに寄与すると考えられます。そこで、光集積素子を中心とし、呼気センシングの研究開発に携わっている九州大学大学院総合理工学研究院の浜本貴一先生にお話を伺いました。

先生の研究分野をお教えください。

光集積素子や半導体レーザーなど、光デバイスを中心に研究開発を行っています。従来の集積素子は、電子を用いてコンピューターやデータ処理に使われますが、光デバイスは電子の代わりに光を用います。その結果、より高い処理速度、高エネルギー効率が実現可能となるのです。

今回助成いただいた研究は、その中でも呼気センシング用光集積デバイスと呼ばれるものです。

呼気センシング用光集積デバイスとは、何でしょうか。

簡単に言うと、息を吹きかけるだけですぐに自分の健康状態がわかるシステムを実現する基幹部品です。

私たちの開発した光集積デバイスは、将来的にはホームセキュリティシステムに組み込む予定です。利用者は息を吹きかけるだけで、苦痛を伴わず、検査結果がすぐにわかり、一般人が気軽に毎日実施できる──そのようなシステムの実現を目指しています。

健康モニタリングの例。セキュリティシステム上に健康モニタリングを追加したイメージ

光デバイスが専門である先生が、呼気センシングという手法を思いつかれたきっかけは何でしょうか。

きっかけは3歳の娘の入院でした。その際血液検査があり、注射をひどく嫌がっていました。「子どもでも、もっと気軽にできる検査手法がないか」と思ったのが始まりです。当時、企業で光デバイスの研究をしていたため、それと絡めて注射器の針を使わずに健康状態を調べる検査手法を研究したいと考えました。

それからご縁があって2005年、九州大学に採用していただきました。その頃、偶然ドイツのデュッセルドルフ大学の記事を見て、赤外光吸収分光法(対象に赤外光を照射し、透過した光を計測することで物質の特性を検査する方法)を用いた呼気センシングの研究を知りました。初年度の夏休みということも幸いし、まだ学生が研究室に入ってきていなかったので、思い切ってそこの研究室の先生にアポイントを取り、装置を見学させていただくことができました。

現地で研究のイメージがつかめたので、帰国して以来、呼気センシングを研究し続けています。

デュッセルドルフ大学の先生は「困難が予想されるが、チャレンジすれば光集積デバイス化(小型化)もできるかもしれない」と仰っていた。快く研究を拝見することができたことに今でも感謝している、と語る浜本先生
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