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健康・安全モニタリングシステム実現のための小型呼気センシング用光集積デバイスの研究開発(第1回)

九州大学

Kiichi Hamamoto

呼気センシングに、なぜ光を用いる必要があるのでしょうか。

光を検査に用いるメリットは、性質の近いガスであっても種類を同定できること、リアルタイム計測(その場計測)ができることです。

デュッセルドルフ大学の研究システムでは、1mほどの長さのガラス管(チャンバ)に息を吹き込み、そこに赤外光を照射します。赤外吸収波長を調べ、どの光の波長が吸収されたかによってガスの種類を特定することができます。また、赤外光がガスに吸収されると光が減衰するため、その減った量を計測することでガスの濃度を測定します。

しかしこのシステムはサイズがかなり大きいため、実用化を前提に一般家庭に持ち込むことは困難です。そこで私たちの研究室では、光集積デバイス技術を使用し、システムの大幅な小型化を試みました。

デュッセルドルフ大学開発の呼気光センシングシステム

半導体式の気体ガス検出センサーが既にあり、小型で高感度にガスを検出することが可能です。差別化された点はどこでしょうか。

半導体式のガスセンサーは、他の方式のセンサーと比べて小型、長寿命、低コストという特徴があります。酸化スズなど金属酸化物の半導体表面にある酸素とガスが接触することで、半導体の物理量(抵抗値、屈折率)が変化するかどうかを測定するもので、間接的に対象とするガスを検知する仕組みです。これは一般家庭のガス漏れなどで使用されている通り、突発的な発生が想定される状況には適していますが、そのセンサーで検知できる対象ガスが限られるうえ、性質の近いガス同士(二酸化炭素と一酸化炭素、メタンとエタンなど)を見分けることができません。ですので、対象ガスをセンシングすることは可能ですが、複数のガスを区別して検知することはできません。また検知対象ガスや呼気の水分が半導体に蓄積され続けるため、頻繁な換装をする必要があり、日常モニタリングには不向きなのです。

その点、赤外光吸収分光法では、測定ガスの半導体表面への蓄積問題がなく、性質の近いガスでも検出できます。しかし、装置が大きくなり、一部の大学や病院にしか設置できないという問題がありました。この課題に対して、光集積デバイス技術を用いて小型化することで、サイズ・コストの問題を解消します。そのために必要なのが、1mのガス検出チャンバを、1cm角以下の面積内に集積された光導波路(光信号を導くために加工された光回路)に置き換えた光集積デバイスです。

呼気分析の報告例

光集積デバイスの小型化にあたり、今回世界に先駆けてハイメサ導波路を使用されたそうですね。

光は直進する性質を持ちますが、光導波路は通常ガラスや半導体から構成され、極小曲立半径で曲線を構成することで、光導波路を曲げても光を導波させることができます。そのため、この性質を利用できれば、限られた面積に長い光路を集積することが可能になるのです。しかし、固体であるがゆえに、固体内を通る光と計測対象であるガスが接触できず、赤外光吸収現象が発生しないため、計測することができません。

ハイメサ導波路では、導波路幅を光の波長以下(数百nm)に加工することで、光の一部が導波路から漏れ出します。この漏れた部分とガスが接触することで、ガスの成分を検出することが可能になりました。今回の固体からなる光導波路の適用によって気体ガス濃度を検出した例は、世界初の成果です。

光導波路構造図と光集積デバイスのイメージ
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