HOME > 研究者 > 山下太先生 > 南海トラフ巨大地震発生・推移予測シナリオ構築に向けた超大型岩石摩擦実験による断層摩擦すべり挙動の解明 (第2回)

「いつ起こってもおかしくない」と言われる南海トラフ巨大地震。複数のシナリオが想定されることや、時間をおいて地震が連鎖しうることが、その予測を難しくしています。山下太先生は、地震の発生メカニズムを物理的に解明することを目指して、岩石摩擦実験に長年取り組んでおられます。これまでに、世界最大の超大型岩石摩擦試験機を駆使して断層の複雑な挙動の再現に成功されました。

インタビュー第2回では、先生が導入を進めておられる、試料の境界面に生じるひずみを2次元的にモニタリングする革新的な計測法や、今後の展望についてお伺いします。

まずは前回のおさらいとして、南海トラフにおける地震予測の現状と課題、そして先生が取り組まれている超大型岩石摩擦実験に期待されることについて、教えてください。

南海トラフにおける地震は時間変化を伴う複雑な発生機構を持つことが知られており、過去の記録だけから今後起こりうる地震のパターンを予測することは困難です。2021年には当研究所の研究チームが、測位データと弾性エネルギー理論を基に南海トラフにおける地震発生の10のシナリオを構築し、過去にない地震発生パターンの存在を明らかにしました。ただ、このシナリオでは連鎖的に発生する地震を想定していないことが課題です。

私たちは、超大型岩石摩擦実験によって断層で起こる現象を再現し、モニタリングと解析を詳細に行うことで断層にかかる力を定量的に把握し、地震の時間的な推移を含む新しい知見を得ることができると考えています。これまでに、地震における震源核形成や、発生した断層すべりが途中で止まってしまう「半割れ地震」などの現象を再現することに成功し、メカニズムの解明を進めています。

実験において試料のわずかな動きを捉え、理解するためには、かなり細かくデータを取る必要があるのでしょうね。

そうですね。現象を詳細に観測するためにはまず、十分なチャンネル数が必要です。現在、試験機にはひずみゲージ(ひずみを測定するセンサー)を88枚、揺れを測る弾性波センサーを64個、すべり量を測る局所変位センサーを8箇所に設置しており、精度と密度の高い測定が可能になっています。

なおかつ、すべりが伝播する現象は非常に速いため、1MHz(メガヘルツ)、すなわち1秒間に100万回データを取っています。弾性波センサーに関してはさらに速い10MHzで取得しています。15分の実験を1回行うだけで2TBものデータ量になり、データのバックアップに一晩かかります。膨大なデータを管理して解析を行うのは大変ですが、本当に世界で初めてのデータを見ていると思うと、苦労をはるかに凌ぐ達成感があります。

ひずみゲージだけでも176チャンネルが設定されている。膨大なデータを管理するシステムは、既存のプログラミングソフトをもとに先生が開発されたとのこと。高密度でサンプリングしているため、チャンネルどうしの時刻を完全に一致させることにも気を遣う

現在、断層面内のひずみを測定する新しい手法の導入を進めておられると伺っています。その手法について教えてください。

岩石摩擦実験では石の周りにセンサーを張り巡らせてモニターするのが一般的ですが、試料が大きくなるほど内部の情報を得ることが難しくなります。そこで、下側の石の上面に細い溝を掘って光ファイバーを埋め込む手法を考案しました。この光ファイバーは、伸び縮みを測定できる特殊なひずみセンサーになっています。光ファイバーは0.2mm未満と非常に細く、極めて細い溝に埋め込むことができるため、摩擦への影響なく内部のひずみ状態を調べることができます。

超大型岩石摩擦実験に先立つ準備研究として、4cm角の小さな岩石に細い溝を掘り、光ファイバーを埋め込んで測定試験を行いました。さまざまな幅と深さの溝を作って解析し、数値シミュレーションも実施して検討した結果、幅1mm、深さ1.5mmの溝が最適であるという結論に達しました。

光ファイバーひずみ計測は、断層内部の挙動を2次元的にモニタリングできる革新的な技術であり、断層すべりが停止や連鎖する力学条件及びメカニズムの理解につながると期待しています。

超大型岩石摩擦実験における断層面内ひずみモニタリングの概念図。光ファイバーひずみ計測は、断層すべり挙動に対する2次元的な理解をもたらす
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