もともと物理や地球に興味があり、九州大学の地球惑星科学科に入学しました。ただ、当初から明確な目標があったわけではありません。進路が決定づけられたのは、大学2年生の冬でした。阪神・淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震が発生したのです。九州ですから発生直後はほとんど情報がなく「今朝大きな地震があったらしいけれど、講義は普通にあるだろう」と思って教室に行きました。すると、1限目の先生が無言で現れ、ツカツカと黒板に歩み寄って「死者◯百名」と書きました。その瞬間、教室の空気が一変しました。それだけでも衝撃でしたが、最終的には遥かに大きな被害となったのです。
それが転機で、地震予知の研究を志しました。勉強をしていくなかで、地震予知は非常に難しいということも分かってきました。そして、単に前兆現象をつかまえようとするだけでは不十分であり、原点に立ち戻って地震のメカニズムそのものを解明しなければいけないと思うようになりました。
南海トラフではこれまでに巨大地震が繰り返し発生し、その都度、広域にわたる甚大な被害が引き起こされてきました。今後の地震発生に向けて対策が強く求められていますが、どのような形態で地震が起こるかを予測することは簡単ではありません。
過去に南海トラフで起こった地震を振り返ってみましょう。1707年の宝永地震では震源域全体が一気にすべって、マグニチュード8後半クラスの非常に大きな地震が起きたと考えられています。一方、1854年の安政東海地震と安政南海地震では、東海地震の32時間後に南海地震が発生しています。想定震源域の一部のみがすべって大きな地震が発生する現象は「半割れ」と呼ばれ、続けて残りの領域でも大きな地震が発生する可能性が高まると考えられますが、それがいつになるのかは分かりません。1944年に発生した昭和東南海地震では、2年もの間をおいて1946年に昭和南海地震が発生しました。
このように南海トラフでは、地震が毎回同じ単位で起こるわけではなく、時間推移を伴う複雑な発生機構が見られます。したがって、履歴からの予測には限界があるのです。私たち防災科学技術研究所の研究チームは、過去の記録だけでなく、最新の観測データと物理法則に基づいた地震の予測が必要であると考え、研究を進めてきました。

文部科学省地震調査研究推進本部による「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)」より、過去の南海トラフでの地震の記録。南海トラフにおける地震には、複数の異なる発生パターンがあることが分かる
共同研究者である齊藤竜彦先生の研究チームは、南海トラフにおける地震発生の10のシナリオを提唱されました。これは、GNSS(Global Navigation Satellite System、人工衛星を利用して地球上の位置を測定する全球測位衛星システム)による測位データと弾性エネルギー理論に基づいて、エネルギーが溜まっている4つの領域を導き出し、それらの組み合わせによって10通りのシナリオを構築したものです。これにより、過去に発生した宝永型・南海型・東南海型以外のパターンでも地震が起こりうることが明らかになりました。また、これらのシナリオは観測情報に応じてアップデートできる点が優れています。
ただ、シナリオの構成にあたっては、それぞれの地震が個別に発生することが想定されており、1つの地震が起こった後に連鎖的に別の地震が起こる「半割れ」のパターンについては触れられていません。
この問題を解決するためには、時間変化を含めた岩石摩擦(岩石どうしが擦れ合う際に、接触面に生じる摩擦)の特性を明らかにしなければなりません。そのための有効な手段が岩石摩擦実験なのです。

現在提唱されている地震発生のシナリオ。地図中の赤い部分は、断層にひずみエネルギーが蓄積されており、今後すべる可能性が高い領域