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南海トラフ巨大地震発生・推移予測シナリオ構築に向けた超大型岩石摩擦実験による断層摩擦すべり挙動の解明 (第1回)

防災科学技術研究所

Futoshi Yamashita

長年にわたって大型の岩石摩擦実験に取り組んでこられたご経験が、この研究に活かされているのですね。それでは次に、実験手法についてご説明をお願いします。

2つの巨大な岩石を上下に積み重ね、上から6個のジャッキで押さえつけて地圧の状態を作ります。上の石は左右からも押さえて固定します。下の岩石はローラーに乗っており、これを巨大なジャッキで水平方向に押します。ローラーはスルスルすべるので、水平方向の力は接触面だけにかかります。接触面には摩擦力がかかっており、すぐには動きませんが、水平方向の力は徐々に溜まっていき、溜まった力が接触面の摩擦力を超えると一気にすべる、というのが基本的な仕組みです。

このように、接しあう2つの物体をすべらせようとするとき、なめらかに動かずに、すべったり止まったりを繰り返す現象を「スティックスリップ」と言います。地震もまさにスティックスリップの一つで、断層が少しすべっては止まり、何百年、何千年経ってからまたすべることが起こっています。本研究の岩石摩擦実験は、実験室内で地震を作っていると言えるのです。

超大型岩石摩擦試験機の写真と概念図。上部に配置されたジャッキ1個で200tfの力を加えることができ、6個で計1200tfの力を加えられる。tf(トンフォース)は力の単位で、1tfは1tの物体にかかる重力を示す。水平方向のジャッキも1200tfの力を持ち、大きさと力に関してはまさに世界最大

世界最大というだけあって、かなりの迫力ですね。さっそく、実験結果をご紹介いただけますか。

まず、初期の実験についてご紹介します。プレートの動きを模擬して、0.01mm/秒という一定の速度で下の岩石を押し続けました。やがて、溜まった力が接触面の摩擦力を超え、一度にドン! とすべります。ずれの大きさはわずか0.2mmほどですが、非常に大きな音が出ます。

ところで、断層は全面が一度にすべるわけではなく、あるところがはがれ、はがれたところが広がって全体がすべることが知られています。最初にすべったところが震源になるわけです。

実験に先立って、この試験機ではどこが震源になるかを、有限要素法に基づいてコンピューターで計算しました。有限要素法とは、物体や構造物を小さな要素に分割し、それらの要素の性質を数値化して計算を行うことで、全体の挙動を解析する手法です。その結果、装置の東端からすべり始めることが予測されました。実験では全体が一瞬ですべっているように感じられますが、結果を詳細に解析すると、確かに東側が先にすべって、西側にすべりが伝わっていたことが確認できました。

すべりが伝わる速さはおよそ数km/秒で、本物の地震と同程度の速さです。これだけの大型岩石試料でも、端から端までわずか0.004秒ですべってしまいました。もし小さな試料であれば、あっという間に端に到達してしまい、とても検出できないでしょう。このことからも、大きな岩石を使った実験の重要性がお分かりいただけると思います。

実験におけるひずみ伝搬の様子を解析した図。白い線は44箇所の測定点におけるひずみ量、背景の色がすべり量を示している。白い線のピークに着目すると、すべりが東側から始まって西側に伝わったことが分かる

超大型岩石試料を使うことで初めて、すべりの伝搬の観測が可能になったのですね。

伝搬は観測できましたが、試料の端からすべり始める実験では「地震の始まり」が捉えられません。そこで、6つあるジャッキのうち1つの力を徐々に抜くという工夫をしてみました。

この「力を抜く」操作は、自然界では、高圧のものが断層に入り込むなどして断層が無理やり開かれる状況に相当します。実例を挙げると、2024年に発生した能登半島地震では、地下から入ってきた流体が断層を押し広げて地震が始まったと考えられています。ある場所からすべりが始まったとき、最初はゆっくりと広がり、すべった領域がある大きさに達すると一気に広がる現象が知られています。すべりの始まりを震源核形成、初めのゆっくりとしたすべりをプレスリップと言い、プレスリップを捉えることが地震予測につながるとも考えられています。

実験結果を解析すると、力を抜いたジャッキ付近で初めにすべりが生まれ、そこから東西の両側に伝搬したことが確認されました。ジャッキの荷重を調整することで、地震の始まりである震源核形成をコントロールすることが可能になったのです。また、すべりの始点では、ゆっくりとした微小なすべりが早い段階で始まっていたことも分かりました。

ジャッキの力を抜く実験における、ひずみ伝搬の様子を解析した図。全体がすべり始めるより前に、震源核が形成されていることが分かる

その後さらにジャッキの荷重を工夫し、すべり始めた断層が途中で止まってしまう「半割れ地震」の再現にも成功しました。これは、超大型岩石摩擦実験における大きな成果の1つです。地点ごとにかかる力を解析し、断層をすべらせるために必要なエネルギーが途中で不足したためにすべりが止まったことが確かめられました。

今後も実験を重ね、2次元的なすべりがどのように始まりそして止まるのかを詳細に解明したいと考えています。

断層のすべり挙動を理解するために、大型の岩石実験が必要であることがよくわかりました。また、超大型岩石を用いた実験によって複雑な断層の挙動が再現され、メカニズムの解明に近づいていると感じました。次回のインタビューでは、先生が新しく導入された光ファイバーを用いたひずみの計測方法について詳しくお伺いします。

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