HOME > 研究者 > 山本真行先生 >複合型インフラサウンドセンサーの面的展開による津波防災情報伝達ネットワークの構築(第1回)

今回のご研究は“複合型”インフラサウンドセンサーということですが、インフラサウンドの他にも何かのセンサーがあるのでしょうか。

気温、気圧、騒音、加速度などの各センサーを搭載しています。人工的な騒音や振動、気象現象による気圧の変動を測定することで、津波のインフラサウンドを区別して検出するためです。また、加速度計は地震が発生したときに簡易地震計の代わりになるなど、インフラサウンドを含めたさまざまな種類のデータを同時に測定することで、幅広い検証が可能な装置になりました。

さらに、停電や通信回線の喪失への対応、遠隔操作によるデータ確認などを実現するため、ノートパソコン、ルーター、UPS(停電や断線などの電源トラブルに対応する無停電電源装置)も繋いでいます。

大学構内に設置された複合型インフラサウンドセンサー。外部からログインし、遠隔操作でデータを確認したり、再起動をかけることもできる。設置に必要な時間はわずか30分

既存の津波検知システムとは、どのような違いがあるのですか。

東日本大震災以降、海底に地震計や水圧計を設置して地震や津波などの観測をリアルタイムに行う海底ケーブルネットワーク型観測システム(地震・津波観測監視システム DONET)と、GPS波浪計(津波計)の整備が急ピッチで進んでいます。ただし、海底への設置、運用、維持には莫大なコストがかかるうえに、地震や津波が発生した際にデータ通信用の光ケーブルが切断した事例もあります。

一方、この複合型インフラサウンドセンサーは陸上に簡単に設置できるため、導入・設置・運用ともにコストが大きく抑えられます。

さらに大きな強みが、発生した津波そのものの平均像を観測し、その規模を正確に予測できるということです。研究を進めることで、インフラサウンドがセンサーに到達した瞬間、その波形から津波発生時の「海面の高さ」「エネルギー」を特定し、正確な“津波マグニチュード”を算出できる可能性が高まりました。

従来のシステムでも、到達する津波の具体的な高さは示されていますが……

実は、現在のシステムは発生した津波そのものを測定しているわけではありません。地震の震源地やマグニチュードは地震の検知から数秒で簡易計算されますが、津波に関しては過去の事例の中から最も近いデータを用いて計算し、予測しているのです。東日本大震災のときはマグニチュード9クラスのデータが存在せず、マグニチュード8程度のデータで計算されました。そのため実際の津波より低い数字を発表してしまい、被害の拡大につながってしまいました。

本システムは、実際に発生した津波によるインフラサウンドを観測します。既存の津波防災システムを補完する形で活用できれば、津波警報の精度の向上が実現できると考えています。

津波のインフラサウンドの波形から、地震によって盛り上がった海面の高さや広さを解析し、計算によって津波の規模を推定することができる、と語る山本先生

どの方法が正しいというわけではなく、異なる方法で同時に観測することによって、各システムの弱点を補い合うことができるのですね。次回はこの複合型インフラサウンドセンサーを活用した津波防災システムについて、詳しくお伺いします。

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