HOME > 研究者 > 山本真行先生 >複合型インフラサウンドセンサーの面的展開による津波防災情報伝達ネットワークの構築(第1回)

2011年3月11日、東日本大震災で発生した巨大な津波が東北地方の沿岸部の町を襲った光景は、7年が経過した今でも人々の記憶に焼き付いています。そして現在も、30年以内に発生する確率が高いと言われている南海トラフ地震、および地震によって発生する大津波にどのような対策を取るべきか、専門家による議論や研究が日夜行われています。

日本の津波防災システムは、今どうなっていて、これからどうあるべきか。既存のシステムとは異なる分野から津波防災情報の研究に取り組んでおられる、高知工科大学総合研究所インフラサウンド研究室長の山本真行先生に、お話を伺いました。

まずは先生のご専門について、教えてください。

私の専門は地球物理学です。ただし地震や津波ではなく、防災とは一見無関係の「流星」や「高層大気」です。宇宙と地球の境界領域である超高層大気はまだ謎が多いため、地上から望遠鏡やレーダーなどを使って遠隔探査(リモートセンシング)をしたり、ロケットや気球にセンサーを搭載して飛ばして調査を進めています。

インフラサウンドに出会ったのは、高知工科大学に赴任した翌年の2004年です。学会で知り、興味を持って研究に取り入れてから14年が経ちました。

インフラサウンドとは、どのような音なのですか。

音とは圧力の振動、つまり「空気の揺れ」です。空気が揺れる細かさを「周波数」といい、人間の耳が捉えているのは、一定範囲内の周波数のみです。周波数が高すぎて聞こえない音は超音波、低すぎて聞こえない音は超低周波音と呼ばれています。この「低すぎて聞こえない音」がインフラサウンドです。

たとえば弦楽器は、バイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバスの順に楽器のサイズが大きくなり、音域も低くなります。コントラバスの大きさは約1.8 mですが、もし1 kmサイズの巨大コントラバスが作れたとしたら、その音色は超低周波音となり、私たちには「音」ではなく「振動」として感じられるか、もはや感知できないでしょう。

インフラサウンドは、非常に巨大な空気の振動が起きたときに発生します。たとえば、火山噴火や雷、台風、流星、地震、津波などです。周波数が低いほど遠方に届くため、大規模な現象であれば1,000 km以上離れた場所でもセンサーで捉えることが可能です。

流星も、インフラサウンドを発しているのですか。

はい。流星は、宇宙空間にある塵のようなものが地球の大気に突入したときに光る物理現象ですが、突入する速度が超音速(およそ10〜70 km/s)になるため、衝撃波が発生します。衝撃波も大気を揺らす振動であり、インフラサウンドです。

流星のインフラサウンドを検出するセンサーは、研究室の学生たちが積極的に作ってくれました。市販のセンサーは高額で、外国製のものしかありませんでした。ものづくりを主体とする工学部の人間にとっては、自分たちで作ったセンサーで測定するほうが、研究として面白かったのです。2009年にはプロトタイプが完成し、その後、企業側に移転し特許を取得しました。

山本先生は、2010年6月に小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還したときのプロジェクトチームの一員。「はやぶさ」カプセル大気突入時の衝撃波によるインフラサウンドを、オーストラリアの砂漠で測定した

センサー開発のきっかけは、流星のインフラサウンドを捉えるためだったのですね。 

そうです。ただし自作のセンサーは、10万円程度の安価で済むというメリットがある一方、耐久性や性能は十分とはいえませんでした。そこで2013年から「株式会社サヤ」と共同で国産インフラサウンドセンサーの開発に取り組み、2014年に完成、翌年から販売を開始しました。価格は80万円まで上がってしまいましたが、高性能のセンサーを作ることができて満足しています。

初の国産インフラサウンドセンサー「ADXII - INF01C」。津波に特化したインフラサンドセンサーは世界初
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