HOME > 研究者 > 佐藤陽祐先生 > 航空機の安全・安心・安定な運航のための、気象雷モデルによる雷予測(第2回)

航空機被雷は、機体損傷を引き起こし航空機の安全運行を脅かすとともに、安定な運航に支障をもたらします。近年導入されている炭素繊維複合材を用いた機体では特に被雷による損傷が大きく、将来にわたって被雷の影響は拡大することが見込まれています。航空機被雷の危険性予測に取り組んでおられる佐藤陽祐先生は、シミュレーションを用いて雲内部の電荷や電場を計算することで、雷の発生を予測する「気象雷モデル」を開発されました。インタビュー第2回では、モデルをさらに改良するための新しい試みについてもお伺いします。

まずは前回のおさらいとして、航空機被雷のメカニズムと、先生が開発された「気象雷モデル」の特徴について教えてください。

航空機被雷は、電荷が蓄えられた雲やその周辺を金属の塊である航空機が通過することで引き起こされる、誘発雷という現象です。航空機被雷の危険性を予測するためには、雲内部の電荷や電場を知ることが必要になります。現在、レーダーによる観測データをもとに、雲内で電荷分離が起こりやすい場所を推定して危険性を見積もる手法が用いられています。しかしこの手法は観測データを外挿することで事後的に被雷危険性を予測しているため、数十分〜1時間先の予測が限界であり、航空機運航への応用範囲が極めて限定的なものとなっています。

そこで本研究では、シミュレーションを用いて雲内部の電荷や電場を直接計算する「気象雷モデル」の開発に取り組みました。この気象雷モデルを用いて1~2日先の被雷危険性を予測することが本研究の目指すところです。計算の高速化や、過去の事例を用いた検証を経て、現在では1.5〜2日先の被雷危険領域の予測情報を、関係者に限定してではありますが提供することが可能になっています。今後はモデルのさらなる検証を行うとともに、情報提供の方法を改良していきたいと考えています。

いよいよ、気象雷モデルの社会実装が視野に入ってきましたね。

これまでの研究によって、より長期的な被雷危険性の予測を算出することは可能になりました。次のステップとして、「予測が実際のデータとどのぐらい一致していたか」という評価をすることが重要になります。シミュレーションは、現実のデータと一致しているという確証がなければ先に進めないのです。

しかし、気象雷モデルを検証することは容易ではありません。その理由は主に2つあります。1つは、航空機被雷データを入手することが難しいことです。そしてもう1つは、世界的に見ても雲内部の電荷分布を観測した例はなく、電荷分布に関する現実のデータが存在しないことです。

気象雷モデルの検証に必要な観測データが手に入らないという問題があったのですね。その点は、どのように解決されたのでしょうか。

今後気象雷モデルを改良していくためには、実際の雲内部の電気特性や電荷分布を把握することは必須と考えています。そこで現在、共同研究者の先生と協力して2種類の観測に取り組んでいます。

1つ目は、研究分担者であった吉川栄一先生とその所属機関であったJAXAの協力を得て実施している広域雷放電観測システム「BOLT」を用いた、多地点での地上雷放電の観測です。BOLTが観測するのは雷の経路上を流れた電流値であり、雲内部の電荷量そのものの情報ではありませんが、放電経路上の電荷の正負を特定して3次元で表現できるので、雷雲内部の電気的な特性を推定することに役立ちます。

BOLTを用いた雷放電観測の概略。冬は小松空港、夏は羽田空港の周辺で観測をして、データを蓄積している

研究分担者の方の協力を経て観測を始められたのですね。もう1つの観測手法についても教えてください。

BOLTでは放電経路上の電流値を測定できます。しかし、一番知りたいのは雲の中にある電荷の情報です。そこで、2つ目として、研究分担者である山口大学の鈴木賢士先生が世界に先駆けて、降水粒子が持つ電荷そのものを測る装置を開発しています。気球に測器を取り付けて雷雲に飛揚し、通過した雷雲内にある降水粒子が持つ電荷の情報を得る仕組みです。この装置は「電荷ゾンデ」と呼ばれます。

将来的にはこの電荷ゾンデに降水粒子の撮像機能を備えた測器を組み合わせて飛揚し、降水粒子の情報と電荷の情報を合わせることで、異なる種類の降水粒子それぞれがどのくらいの電荷をもっているかを測定することを目指しています。すでにプロトタイプでの検証は済んでおり、実際の飛揚試験を目指して準備しているところです。

電荷ゾンデの概略。(左上)回路図、(左下)開発した電荷ゾンデのプロトタイプ、(右下)気球に取り付けた電荷ゾンデの概観、および(右上)気球を放球する様子

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