HOME > 研究者 > 佐藤陽祐 先生 > 航空機の安全・安心・安定な運航のための、気象雷モデルによる雷予測(第1回)

雷は、現代においても予知の難しい自然災害の一つです。なかでも航空機への落雷は機体の損傷を引き起こし、航空機の安定した運航に支障をもたらしています。さらに、近年導入されている炭素繊維複合材料を用いた機体は被雷した際の損傷の修理に時間を要するため、将来的に航空機被雷の影響は拡大することがほぼ確実視されています。しかし、現状の天気予報などで提供されている雷の情報は、航空機被雷の危険予測という点で十分とはいえません。より正確で長期的な雷の予測を求める運航現場からの要望に応えるべく、数値シミュレーションを用いた新しい手法で雷の予測に取り組んでおられる、大阪大学大学院工学研究科の佐藤陽祐先生にお話を伺いました。

さっそくですが、佐藤先生が本研究で着目されている「航空機被雷」とはどのような現象なのか教えてください。

まず、一般的な雷についてご説明しましょう。雲の中で霰や氷の粒が衝突すると、プラスやマイナスの電荷を帯びるようになります。その電気的な偏りを中和するために起こる放電現象が雷です。自然界の雷には、雲の中で発生するものや地上に落ちる落雷があります。それらの自然雷と、航空機に対する落雷である航空機被雷は、電荷の中和現象という点では同じです。

一般的には、強い電場の条件で雷が発生すると考えられています。ところが、雷が起こらない程度の大きさの電場でも、そこを通った航空機に落雷することがあります。これは、金属の塊である航空機が電荷を持つ雲の近くを通ることによって雷を発生させる「誘発雷」という現象です。

航空機被雷による被害の例。雷が航空機に落ち、さらに地面に到達することもある。出典:https://repository.library.noaa.gov/view/noaa/27429

航空機そのものが被雷の引き金になってしまう現象なのですね。国内の航空機被雷の実態について教えてください。

被雷による損傷件数は、国内だけでも年に数百件とされています。航空機は現役の間に平均で1〜2回、被雷に遭遇することになります。航空機被雷が直ちに人命の危機となることはまずありませんが、被雷によって損傷した機体には修理が必要です。一時的な修理にかかる費用だけでも年間数億円の規模と見積もられていますし、本格的な修理を含めばもっと大きな金額になります。さらに、修理によって遅延や欠航が発生し、補償が必要になることもあります。

また近年、燃料消費を抑え、環境負荷を下げる目的で炭素繊維複合材を用いた軽量の機体が導入されていますが、このような機体は被雷時の修理に時間がかかります。従来の金属の機体であれば数時間で済む修理が、炭素繊維複合材を用いた機体だと何日もかかってしまうこともあります。その間、被雷した航空機は使用できないため、運航機会の逸失や運航ダイヤの乱れが生じます。

このような背景から、今後の航空業界の発展において、被雷による被害の低減は重要な要素とみなされており、航空機被雷を防ぐための複数の取り組みが行われています。

そこまで大きな被害額になるとは知りませんでした。今後さらに、航空機被雷を防ぐことの重要性が増していくのですね。ところで、雷の観測データや天気予報などから被雷の危険性を予測することは難しいのでしょうか。

実は、現状の天気予報をそのまま航空機の被雷危険性の評価に用いることは現実的ではありません。気象庁は雷監視システム(LIDEN:LIghtning DEtection Network system)を運用しており、発生した雷の位置、発生時刻等の情報を収集しています。ただ、その観測対象は基本的に自然雷です。先ほどお話ししたとおり航空機被雷は誘発雷であり、自然の雷とは異なります。誘発雷を予測することの難しさが、航空機被雷の予防を困難にしているとも言えます。それに加えて、現状の天気予報では雷の情報は雷注意報のみで、これは航空機被雷の予防に必ずしも有効ではありません。放電現象である雷の予測は本来、雲の中の電荷の状況から導かれる必要があります。しかし天気予報において、電荷の情報は考慮されていません。過去の様々なデータから「このぐらいの雨が降っているところでは雷の危険性がある」というような統計的な解析を行い、それに基づいて雷注意報を出すかどうかを判断しているのが現状です。

※ページ内の画像の無断転載はご遠慮ください。

Copyright(C) SECOM Science and Technology Foundation