共同研究者である大阪大学の吉川栄一先生は、空港周辺のレーダー観測の情報から、雲内で航空機被雷が起こりやすい場所を推定して危険性を見積もる手法を開発されました。この手法によって、観測データを外挿することでおよそ1時間後までの被雷が起こりやすい雲の状況が予想できると見込まれます。そのデータから、航空機が通ると被雷する可能性が高い領域を示すマップが作成されています。この技術に基づく被雷危険領域の現況マップはすでに社会実装され、航空機の離着陸の際の判断に活用されています。
ただ、観測データを外挿しても、新しく生まれる雲は表現できません。雲の寿命は1時間程度と言われており、この手法では数十分〜数時間先の予測が限界です。そこで、「より長期的な雷の予報ができる新しい手法を開発すれば、見通しを持った航空機の運航計画が可能になる」と考えたのが、この研究の始まりです。
1日以上先の気象を予測するためには、観測データの外挿では不可能であるため、数値シミュレーションが必要になります。皆さんが日頃見ている天気予報も、スーパーコンピュータを使った数値シミュレーションの結果から導かれています。具体的には、地球を格子状に区切って、気温、風、湿度など「気象場」の情報を入力し、それぞれの格子で今後どのような時間変化が起こるかを計算しています。算出された降水や風、気温などの分布を予報官が見て判断し、天気予報を行うのです。
天気予報の技術は、気象庁をはじめ多くの機関によって確立されています。しかし、計算に必要な程度に広範囲で雲の中の電荷分布を測定した例は世界中どこにもありませんから、電荷のデータはそもそも考慮されません。また、雲の中の電荷を扱うシミュレーションも現業の予報機関では取り扱っていないため、被雷に特化した予報が全くないのが現状です。
私は、電荷の中和現象である雷を予測するためには、電荷そのものをシミュレーションで扱う必要があると考えました。そして、天気予報に「雲の中の電荷の状態」を解く部分を加えた独自のシミュレーション、「気象雷モデル」を作りました。この「気象雷モデル」によって、1〜2日先の予報が可能になります。雲の中の電荷を計算するシミュレーションは世界的に見ても3〜4例しかなく、国内で現在も開発を続けている唯一の研究事例だと思います。

本研究の目標である、シミュレーションによる長期的な雷予報の概念図。観測データを外挿する現行の手法と異なり、スーパーコンピュータを用いて電荷を直接計算する
最初に取り組んだのは、計算の高速化です。シミュレーションコードを作った当初は、天気予報の計算に電荷の計算を加えることによって、計算時間が何倍にもなってしまっていました。一例を挙げると、ある一連のプロセスに対して、全体の計算時間171秒のうち、雷に関する計算が155秒も占めていました。20秒ほどで終わる計算が、雷の計算を追加することで171秒になってしまうわけです。これが累積すると、明日の予報をするための計算が明日までに終わらないという事態になります。
そこで高速化に注力し、計算時間の大幅な短縮に成功しました。155秒かかっていたプロセスも今では5秒ほどで算出できるようになり、全体の計算としても予報のできる速度に到達しました。それに加えて、計算結果から被雷危険領域をマップとして表示するためのアルゴリズムも開発しました。

世界的に見ると、雷を扱う気象シミュレーションは数件実施されているが、通常の気象モデルに比べると計算負荷が大きく時間がかかるため、天気予報などに広く用いられるには至っていない
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