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航空機の安全・安心・安定な運航のための、気象雷モデルによる雷予測(第1回)

大阪大学

Yousuke Sato

それでは、「気象雷モデル」から導かれた結果をご紹介いただけますか。

本研究で開発した気象雷モデルでは、雲の中の電荷の構造を計算しており、雲をある断面で切った時の電荷の分布を描くことができます。電荷があればそれだけで雷が発生するわけではありません。帯電した雲粒が正の電荷と負の電荷に分かれて電場を持つようになり、その電場が非常に大きくなったところで中和現象、すなわち雷が起こります。気象雷モデルは、電荷の分布をもとに電場を計算することで、雷の発生条件を満たす場所を予測し、「雷がどこで何回発生するか」という情報まで示すことができるのが特徴です。

さらに、雷が発生していなくても、ある程度電荷のたまっているところに航空機が近づけば被雷します。気象雷モデルを使って電荷や電場の分布を予測することで、「誘発雷も含めた被雷がどのぐらいの危険性で起こるか」という情報を提供できると考えています。

台風が通過するときの雲と雷の様子を計算したシミュレーション結果。左図の黄色で示した部分は雷が発生するところ。右図は雲の中の電荷の分布を表しており、赤が正電荷、青が負電荷を示す。Sato et al. (2022):https://rmets.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/asl.1067

シミュレーションを使えば、ここまで詳細に雲の中の電荷分布を予測できるのですね。

大切なのは、計算結果が現実の雷と一致していることです。その検証のため、まず自然雷に着目しました。過去に起こった複数の雷の事例において、気象庁の雷監視システム「LIDEN」による観測結果を基準に、経験的に見積もる手法によって導かれる雷の分布と、気象雷モデルによるシミュレーション結果とを比較しました。

その結果、雷を計算せず経験的に見積もる手法では、雷の危険性を大きく過大評価してしまうことが示されました。それに対して、気象雷モデルで計算した結果は、多少の位置のずれはあるものの、観測データと比較的一致していることが確認できました。

過去の落雷データを用いて気象雷モデルの検証を行い、その有用性を示すことができた。Tomioka et al. (2023):https://link.springer.com/article/10.1186/s40645-023-00592-w

実際の複数の事例に対して、気象雷モデルの有用性が確かめられたのですね。

次の段階として、実際に現場で活用してもらうためには「予報」をしなければいけません。そこで、気象雷モデルを用いた独自の予報に取り組みました。具体的には、羽田空港と成田空港のある関東領域を対象に、毎日スーパーコンピュータによるシミュレーションを行って被雷危険領域の予測マップを作成し、航空会社を含む関係者に限定して提供しました。予報の頻度は9時、15時、21時、0時の1日4回です。これにより、航空会社に対して「1.5〜2日先の被雷危険領域の予測情報が提供可能な体制」を整えることができました。

今後、これまで提供した予報がどのぐらい的中していたのか検証を進める予定です。情報提供のスタイルにはまだ改良の余地はありますが、いずれにせよ、現状の天気予報にはない雷の情報を、活用しやすい形で提供することを目指しています。

気象雷モデルによる数値予報の結果から導出された被雷危険領域の計算例。黄色が中程度危険領域、赤が高危険領域を示す

雲の中の電荷を扱うシミュレーションによって雷を予測する、独自の「気象雷モデル」についてご説明いただきました。既存データとの比較によってモデルの有用性が確かめられ、さらには1〜2日先の被雷危険性の予測と航空機関への提供が実現するなど、社会実装に向けてご研究がどんどん進んでいると感じました。次回のインタビューでは、予報の検証とモデルの改良を目的とした、新しい取り組みについてお伺いします。

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