HOME > 研究者 > 三輪空司先生 > 加振レーダによるRC部材の鉄筋可動性に着目した定量鉄筋腐食評価技術の革新(第2回)

建設から50年以上が経過しているインフラ構造物は、2020年において「道路橋」で約21万本以上、「トンネル」で2,000箇所以上も存在しています。崩落事故等を未然に防ぎ、国民の安全・安心な生活のためにも、そうしたインフラ施設の劣化を早期に発見する技術革新が求められています。

三輪先生はご専門のレーダ分野を中心に、他の学術分野の知見を取り入れながら、誰もが簡便に鉄筋コンクリートの腐食度を測定できる技術開発を進めています。第2回では、新たに生じた仮説「加振によって腐食生成物が動いている」の検証結果と、今後の展望についてお聞きしました。

まずは、前回のおさらいをお願いします。

鉄筋コンクリートの劣化は、鉄筋の腐食が進行することで生じます。しかし、5年に一度の目視点検では早期発見が困難だったため、広範囲を迅速に、現時点の腐食状況を非破壊で測定できるような、実用的かつ簡易的な測定技術の開発が求められていました。

そこで私たちは「鉄筋が腐食すると、コンクリートとの付着力が低下する」という点に着目し、励磁コイルでコンクリート内の鉄筋を振動させ、その振動変位で間接的に鉄筋の腐食量を評価する『加振レーダ法』を開発しました。

研究室や実橋梁での実験を経て、振動変位の大きさと実際の鉄筋腐食の進行度が一致することは証明できましたが、新たに「鉄筋ではなく、磁力を持つ腐食生成物の黒錆が動いている」という仮説が生まれ、その検証を行いました。

その一つとして、測定装置を半円弧型から直方体型に改良したのでしたね。

福井県の海岸にある構造物で、実際に計測させてもらいました。計測後にコンクリートを剥がして中の様子を確認したところ、計測結果と一致していました。

その後も改良を重ね、研究室内で12本の供試体を使って実験しました。腐食状態の供試体にのみ、明確に振動変位が増加するという結果が出て、精度向上に成功しました。

装置の底部分に車輪をつけて、少ない力でもスムーズに動かせるようにした。コイルは490巻、アンテナは2つ。軽量化(約4kg)にも成功した

コンクリートの厚さや鉄筋の太さなど、鉄筋コンクリートは複数の種類がありますが、「劣化している」と判断できる振動変位の数値は、それぞれ異なるのでしょうか。

はい。それを確かめるために、鉄筋の太さ(鉄筋径)と、かぶり(コンクリート表面から鉄筋表面までの最短距離)の深さが異なる供試体を30本作成し、健全状態で加振したときの振動変位を計測しました。その結果、「鉄筋が細いものより太い方が、振動変位が小さい」などの違いがあり、かぶり厚や鉄筋径依存性、振動変位の統計量(平均値、標準偏差)などから、健全状態のラインを推定できました。

計算方法については割愛しますが、「健全供試体の平均振動変位×3σ」を腐食閾値として、腐食を促進させた供試体の振動変位を測定したところ、健全部分は腐食閾値以下に、腐食が進んだ部分は大幅に腐食閾値を超える結果が出ました。

腐食生成物が微量であっても腐食閾値を超える結果が出た。腐食初期においても、その位置を含めた正確な判定が期待できる
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