鉄筋コンクリートの劣化は、鉄筋の腐食が進行することで生じます。しかし、5年に一度の目視点検では早期発見が困難だったため、広範囲を迅速に、現時点の腐食状況を非破壊で測定できるような、実用的かつ簡易的な測定技術の開発が求められていました。
そこで私たちは「鉄筋が腐食すると、コンクリートとの付着力が低下する」という点に着目し、励磁コイルでコンクリート内の鉄筋を振動させ、その振動変位で間接的に鉄筋の腐食量を評価する『加振レーダ法』を開発しました。
研究室や実橋梁での実験を経て、振動変位の大きさと実際の鉄筋腐食の進行度が一致することは証明できましたが、新たに「鉄筋ではなく、磁力を持つ腐食生成物の黒錆が動いている」という仮説が生まれ、その検証を行いました。
福井県の海岸にある構造物で、実際に計測させてもらいました。計測後にコンクリートを剥がして中の様子を確認したところ、計測結果と一致していました。
その後も改良を重ね、研究室内で12本の供試体を使って実験しました。腐食状態の供試体にのみ、明確に振動変位が増加するという結果が出て、精度向上に成功しました。

装置の底部分に車輪をつけて、少ない力でもスムーズに動かせるようにした。コイルは490巻、アンテナは2つ。軽量化(約4kg)にも成功した
はい。それを確かめるために、鉄筋の太さ(鉄筋径)と、かぶり(コンクリート表面から鉄筋表面までの最短距離)の深さが異なる供試体を30本作成し、健全状態で加振したときの振動変位を計測しました。その結果、「鉄筋が細いものより太い方が、振動変位が小さい」などの違いがあり、かぶり厚や鉄筋径依存性、振動変位の統計量(平均値、標準偏差)などから、健全状態のラインを推定できました。
計算方法については割愛しますが、「健全供試体の平均振動変位×3σ」を腐食閾値として、腐食を促進させた供試体の振動変位を測定したところ、健全部分は腐食閾値以下に、腐食が進んだ部分は大幅に腐食閾値を超える結果が出ました。

腐食生成物が微量であっても腐食閾値を超える結果が出た。腐食初期においても、その位置を含めた正確な判定が期待できる