HOME > 研究者 > 三輪空司先生 > 加振レーダによるRC部材の鉄筋可動性に着目した定量鉄筋腐食評価技術の革新(第1回)

私たちの生活を支えている道路や橋、トンネルなどのインフラ施設の多くは、高度経済成長期に建設されたものです。2012年には山梨県の「笹子トンネル」で、換気ダクト用に設置されていた天井板が138mにわたり崩落し、9名が死亡する痛ましい事故が発生しました。これらの構造物の劣化状況は早期に把握するべきですが、現在実施されているのは主に5年に一度の目視点検であり、精度が高いとは言えません。

群馬大学大学院理工学府電子情報部門の三輪空司先生は、レーダを用いた計測技術で、鉄筋コンクリート(RC)の損傷を早期発見するためのご研究をされています。どのような技術なのか、お話をうかがいしました。

先生は学生時代から、レーダの研究をされていたそうですね。

はい。資源工学科で、地熱発電に必要な地下の熱交換源となる含水き裂をレーダで探す「ボアホールレーダ」を開発していました。ただし、地下100〜200メートルもの深い場所で測定結果の成否がわかりにくいことや、もっと直接的に人の役に立つものを作りたいと思うようになり、レーダの対象を浅い場所や、地上にあるものに変更しました。その後は、埋没生存者探索用のドップラレーダや、地雷探索レーダなどの開発を手がけていました。

群馬大学に来てからは生体超音波を専門とする先生の助手として、生体内硬さ計測用超音波「加振ドップラエコーシステム」の研究に従事しました。生体組織に低周波振動を連続して与えた時、がん細胞は他の細胞よりも硬いために弾性波の伝搬速度に差異が生じます。この研究で「2種類の波を使って評価する」という研究アイディアを得ました。

さまざまなものを対象にご研究されてきたのですね。今回、鉄筋コンクリート(RC)を対象にされた経緯について教えてください。

2012年に笹子トンネルで天板崩落事故が起きて以来、インフラ施設は5年に一度の目視点検が義務化されました。判定は4段階あり、区分Ⅲは早急に、区分Ⅳは緊急に措置すべき状態に該当します。しかし区分Ⅲの橋梁を補修によって区分Ⅱまで回復させても、5年後の検査では多くが区分Ⅲに逆戻りしてしまいます。

そして、鉄筋コンクリートが損傷する要因の半数は、鉄筋の腐食にあります。区分ⅡからⅢの間くらいの状態で腐食を発見できれば、効率良く予防や保全ができるはずですが、区分Ⅰ、Ⅱの状態を目視で正確に判定することは困難です。そこで、コンクリート内部の鉄筋腐食を定量的に評価する方法が必要だと考えました。

土木分野は、当時から電気電子分野の研究者であっても参入しやすかった。初めて非破壊検査の学会で話しをしたとき、翌日に問い合わせの電話がかかってくるほどニーズがあった

鉄筋コンクリートの劣化速度がそんなに早いとは、知りませんでした。

鉄筋コンクリートの劣化は、鉄筋の腐食が進行することで生じます。主なトリガーは、塩害と中性化です。コンクリート内の鉄筋はアルカリ性を維持する膜によって保護されていますが、塩化物イオンや二酸化炭素によってこの保護膜が破壊されて水や酸素が侵入すると、鉄筋の腐食が始まります。

腐食生成物が生じると体積が増えるため、内部で膨張し、ひび割れが生じます。それが表面まで達すると酸素や水がさらに入り込むようになり、鉄筋の劣化が進んでいきます。

他の劣化要因として、火事や凍結融解による内部膨張や、乾燥収縮や地震などによる表面ひび割れも生じますが,これらの要因のどれか1つでも起きれば連鎖的に劣化サイクルが進行して、鉄筋の破断や欠損、コンクリートの剥離に繋がるのです。

コンクリート劣化の進行

表面にひび割れができていれば、目視でも「劣化している」とわかりますが、それでは遅いのですね。

はい。表面に異常が現れる前に、コンクリートの内部で鉄筋の劣化が始まっていることを知る方法があれば、早い段階で処置に着手できます。非破壊で内部を知ることは困難ですが、レーダ技術を使えば可能だと考えました。

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