鉄筋を一部露出させる「はつり出し」を行い、腐食している可能性を評価する自然電位法があります。しかし、あくまで可能性であり、現在の腐食状況を定量的に評価することはできません。また、環境要因に左右されやすいなどの問題もあります。実用的かつ簡易的な腐食評価方法の技術開発は遅れているのです。
私が着目したのは、一般的に鉄筋が腐食すると、鉄筋とコンクリートの付着力が低下するという点です。「腐食が進めば、コンクリート内で鉄筋が動きやすくなるのではないか」と考えました。そして、鉄筋を強制的に振動させて、その振動し易さを定量化することで間接的に鉄筋腐食量を評価する『加振レーダ法』の開発に着手したのです。
まず、通常のレーダで「コンクリート内のどの位置に鉄筋があるか」を把握します。次に、コンクリートの表面から励磁コイルに交流電流を印可します。すると、磁気吸引力により鉄筋がミクロン単位で振動します。この微細な揺れ(振動変位)をレーダアンテナで検知し、ドップラ計測技術によって評価します。

加振コイルに電流を流すと磁場が発生し、コア(鉄などの強磁性体)が磁束を集中させる。コアと加振コイルの組み合わせにより効率的な加振や電磁力の発生が可能になる
鉄筋コンクリートの供試体(部材の性能を確認するために作成した試料)を塩水に浸し、鉄筋に電気を流して腐食を促進させながら、加振レーダで鉄筋振動変位を計測する実験を行いました。下図はレーダ時刻歴波形の経時変化を表したものです。
左の図は、通常のレーダ応答です。腐食が進むにつれて通常レーダの鉄筋反射が小さくなっていくことを表していますが、これだけでは腐食の有無はわかりません。右の図は加振によって変位する物体のレーダ波形のみを抽出したものであり、腐食が進むとともに鉄筋部位の反射が急激に増加していることが見て取れます。
両者の振幅比が振動変位に比例するため、鉄筋の腐食によって、鉄筋の振動変位が急激に増加することが明らかになったのです。

左は通常のレーダ波形、右は振動する物体のみに感度を持つレーダ波形。横軸の積算電流は、鉄骨の腐食量に対応している
実験室でシステムの有用性が確認できたため、2022年には東京都大田区の協力を得て、60年前に竣工された最下流の橋梁で実フィールド実験に挑戦しました。
方法は、加振レーダ装置を鉄筋コンクリートに押し付けて、少しずつ動かしていくだけです。下図が、その結果です。振動変位が小さければ青、大きければ赤で表示されます。場所によって大きな違いが出ました。
計測後に内部を確認すると、青い部分はほとんど鉄筋の腐食がなく、水色の部分は少し錆が付いていました。黄色からオレンジ色の部分は一部が断面欠損を起こしており、赤色の部分は著しく断面欠損が進行していました。

羽田空港の近くに位置し、塩害が懸念されていた橋梁での実証試験。青は数ミクロン、赤は数百ミクロンの振動変位を観測した場所。100倍のコントラストが明確に出ただけでなく、その結果が実際の状況と一致した