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加振レーダによるRC部材の鉄筋可動性に着目した定量鉄筋腐食評価技術の革新(第2回)

群馬大学

Takashi Miwa

それでは、黒錆と振動変位増加の関わりについて、わかったことを教えてください。

複合サイクル腐食試験機を使い、86サイクルかけて腐食させた供試体を、X線CTで測定しました。輝度から鉄筋部位とサビの部位を区別し、色付けを行うと、鉄筋周囲に錆と思われる腐食生成物のイメージが現れました。

84サイクル目でのCTイメージ

その後、腐食した供試体の一部をウォータージェットで切断し、X線CTで撮影。次に、同じものを直方体型コイルの上に設置し、10Aの電流で加振しながら再度CT撮影して、画像を比較しました。腐食生成物が加振によって動くのであれば、画像に違いが出ます。

加振によって「何が動いているのか」を明らかにするため、供試体の一部を加振した状態で、X線CT撮影を実施した

加振しながらのX線CT撮影とは、すごい実験をされたのですね。

このような実験は、業者に依頼しても絶対に断られてしまいます。そのため装置を購入して、自分で実施するしかありませんでした。その購入金の一部に、助成金を使わせていただきました。本当に感謝しています。

鉄筋下部の拡大図を見ると、境界部分に灰色で表示されている箇所があります。これが腐食生成物の黒錆です。層状で密度が低くなっているため、薄く表示されるのです。

そして、加振していないときと加振したときの差を相対輝度で表したところ、はっきりと黒い線が出てきました。磁力によって錆が動いたことを確認できたのです。

X線透過画像。下の図は、色が濃いほど大きく動いたことを示している

磁力によって振動していたのは、やはり鉄筋に生じた黒錆だったのですね。

次に、黒錆のどの成分が振動変位に影響を与えているのかを調べました。

108サイクル目まで腐食を進ませ、腐食生成物が増加した供試体を破壊し、鉄筋に付着していた粉末状の錆を採取しました。それをXRD解析(X線を物質に照射し、結晶構造や相組成、配向などを調べる分析手法)で測定したところ、磁性を持っているのはγ-Fe2O3(マグヘマイト)である可能性が高いことがわかりました。

この結果をもとに、振動変位が増加するメカニズムの解明をさらに進めていく所存です。

XRD解析による腐食生成物の有磁性成分の同定

このご研究では、レーダ以外にも多くの学術分野の専門知識や技術が使われているのですね。

はい。私は材料科学やコンクリート工学などはまったく門外漢だったので、専門の先生に相談をしたり、自分で調べて勉強したりしながら進めていきました。

この研究を始めた時は、タイトルにもあるように「鉄筋可動性に着目した」「定量鉄筋腐食評価技術の革新」だったのですが、鉄筋そのものが動いているわけではないと気づいてから、研究すべき対象が一気に広がりました。どの分野も軽く触れただけですが、以前よりはるかに研究の幅が大きく広がったと感じています。

供試体は、共同研究者であり、環境創生部門の土木系教員、小澤教授(写真右下)に作製してもらっている

実際の構造物に対して、すでに高い精度で腐食進行度を測定できるシステムになっていると感じますが、社会実装までどのような課題があるのでしょうか。

非破壊検査分野や建設コンサルタント事業者、そして多くの自治体職員に使っていただけるよう、「誰でも簡単に使えるコンパクトな装置」を目指し、その目標にかなり近づけることができました。

しかしレーダ技術を使っているため、どうしても数百万円という価格になってしまいます。実フィールドでの実験に協力してくださった自治体や企業の方々からは、使いやすさと性能においては好評をいただいています。それでも価格がネックとなり、導入が難しいのが現状です。この装置を普及させるためには、国や社会の関心をさらに高めていく必要があると感じています。

しかし、インフラ施設の劣化は待ってくれません。実際に、近年は道路の陥没や水道管の破裂など、予想していなかった事故が相次いでいます。コストを下げる工夫について、今後も模索を続けるつもりです。

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