こちらの試験体は、高さ300m程度の超高層建物を想定しています。実際の建物の振動特性と時間のスケールを、比例的な関係を維持したまま縮小しているため、同じ振動特性を持つ試験体として実験できるのです。
試験体は床と柱からなり、柱の断面が長方形になっているところが特徴です。長辺方向は硬く、短辺方向は柔らかいため、2方向で揺れる周期が異なります。
第1回のインタビューでお見せした運動方程式の通り、長辺方向の固有振動数と短辺方向の固有振動数の和(あるいは差)と、ねじれる方向の固有振動数が一致すると、どんどんねじれが増幅していきます。その振動の様子が、この試験体を用いた実験でも確かめられました。
手作りの試験体を調整する研究室の学生。柱が内側にあるとねじりに弱くなり、外側にあると強くなるので、ねじり振動が実際の建物と近くなるように柱の配置を決めている
物体には「振動モード」という揺れの形状があります。一番下から上まで同じ方向に揺れるのが1次モード、下の層と上の層が逆方向に動き、くの字に揺れるのが2次モードです。3次、4次と高次になるにつれて、振動の節が増えていきます。
高次の揺れは摩擦による減衰が大きくなるため、地震ではあまり励起されず、1次や2次の低い次数のモードで大きく揺れやすいことが分かっています。そのため、現段階ではまず1次から4次モードまでの揺れを再現することを目的に、4層のモデルを作っているのです。
2層モデルの振動モードの概念図。1次モードの固有周期が一番長く、高次になるに従って周期が短くなる
以前から研究室にあったのは、一方向にしか揺することができない一軸の震動台でした。そこで、試験体を45度斜めに配置して揺することでなんとか2方向の揺れを試験体に与えていましたが、実験上の制約が多く、悩ましく感じていました。その後、セコム科学技術振興財団の研究助成を受けることができたおかげで、2方向に自由に振動を与えられる2軸震動台を導入することができました。この震動台によって研究を大きく進展させることができ、とても感謝しています。
また、試験体は全て手作りなので、その設計と製作には苦労しました。
初めは試験体の床板と柱の接合部に穴を開けて柱を差し込んでいましたが、がたつきが出て、思ったような振動が現れませんでした。そこで、接着剤を注入したのですが、そうすると柱を差し込む途中で動かなくなったり、長さの調整がうまくいかなかったり、様々な問題が起こりました。最終的に、柱を2つのパーツで抱え込んでネジで締めるという接合方法を採用し、理想的な試験体の組み立てができるようになりました。
今は、建物の揺れが収まる様子がなるべく現実の建物に近くなるように、ゴムや磁石を使ったりして、様々な試行錯誤を続けています。
振動実験を大きく進展させた、2軸の震動台。2方向に独立に、任意の周期の揺れを与えることができる