HOME > 研究者 > 小檜山雅之先生 > 超高層建物のQ‐Δ共振リスクの解明と耐震設計法・制震改修法の開発(第2回)

これまでの地震対策では、バランスの良い建物においてねじれの振動が発生することは想定されておらず、耐震設計の盲点となっていました。小檜山先生は、今まで誰も注目していなかったQ-Δ共振の現象を理論的に予測し、さらには震動台実験により、ねじり振動が励起される様子を確認されました。Q-Δ共振のリスクの把握にとどまらず、耐震設計法と制震改修法の開発を含めた対応の必要性を感じておられます。インタビュー第2回では、実際の震動台実験を拝見しながら、独自の制震装置の開発についても伺います。

実験で用いられる試験体は、どのような建物を想定して作られているのですか。

こちらの試験体は、高さ300m程度の超高層建物を想定しています。実際の建物の振動特性と時間のスケールを、比例的な関係を維持したまま縮小しているため、同じ振動特性を持つ試験体として実験できるのです。

試験体は床と柱からなり、柱の断面が長方形になっているところが特徴です。長辺方向は硬く、短辺方向は柔らかいため、2方向で揺れる周期が異なります。

第1回のインタビューでお見せした運動方程式の通り、長辺方向の固有振動数と短辺方向の固有振動数の和(あるいは差)と、ねじれる方向の固有振動数が一致すると、どんどんねじれが増幅していきます。その振動の様子が、この試験体を用いた実験でも確かめられました。

手作りの試験体を調整する研究室の学生。柱が内側にあるとねじりに弱くなり、外側にあると強くなるので、ねじり振動が実際の建物と近くなるように柱の配置を決めている

今まで知られていなかった揺れが、実際に起こせたのですね。こちらの試験体が4層の構造になっているのは、なぜですか。

物体には「振動モード」という揺れの形状があります。一番下から上まで同じ方向に揺れるのが1次モード、下の層と上の層が逆方向に動き、くの字に揺れるのが2次モードです。3次、4次と高次になるにつれて、振動の節が増えていきます。

高次の揺れは摩擦による減衰が大きくなるため、地震ではあまり励起されず、1次や2次の低い次数のモードで大きく揺れやすいことが分かっています。そのため、現段階ではまず1次から4次モードまでの揺れを再現することを目的に、4層のモデルを作っているのです。

2層モデルの振動モードの概念図。1次モードの固有周期が一番長く、高次になるに従って周期が短くなる

実験でとくに苦労された点を、教えてください。

以前から研究室にあったのは、一方向にしか揺することができない一軸の震動台でした。そこで、試験体を45度斜めに配置して揺することでなんとか2方向の揺れを試験体に与えていましたが、実験上の制約が多く、悩ましく感じていました。その後、セコム科学技術振興財団の研究助成を受けることができたおかげで、2方向に自由に振動を与えられる2軸震動台を導入することができました。この震動台によって研究を大きく進展させることができ、とても感謝しています。

また、試験体は全て手作りなので、その設計と製作には苦労しました。

初めは試験体の床板と柱の接合部に穴を開けて柱を差し込んでいましたが、がたつきが出て、思ったような振動が現れませんでした。そこで、接着剤を注入したのですが、そうすると柱を差し込む途中で動かなくなったり、長さの調整がうまくいかなかったり、様々な問題が起こりました。最終的に、柱を2つのパーツで抱え込んでネジで締めるという接合方法を採用し、理想的な試験体の組み立てができるようになりました。

今は、建物の揺れが収まる様子がなるべく現実の建物に近くなるように、ゴムや磁石を使ったりして、様々な試行錯誤を続けています。

振動実験を大きく進展させた、2軸の震動台。2方向に独立に、任意の周期の揺れを与えることができる
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