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複数回の長周期巨大地震動を受ける杭・超高層建築物の機能損傷メカニズムの解明(第1回)

東北大学

Yoshihiro Kimura

それでは、超高層建築物の倒壊メカニズム解明のために先生が取り組まれた研究について教えてください。

建築物の倒壊メカニズムを把握するためには、どの部材の崩壊が建築物の倒壊に関わっているのかを特定し、また、その部材が崩壊するまでの累積損傷度を評価する必要があります。そこで、準備研究では杭に着目しました。複数回の地震動によって杭体に損傷が蓄積し、杭基礎が崩壊して超高層建築物が倒壊するケースを想定して、再現実験と数値解析を行い、杭の累積損傷度評価法について検討しました。また、杭材の種類や地盤相対密度の違いによって、液状化時の杭や建築物の崩壊過程にどのような違いが生じるかについても調べました。

なお、再現実験にあたっては、上部構造物と鋼管杭基礎、飽和地盤から成る縮小模型(下写真・図参照)と遠心載荷実験装置を用いました。遠心載荷実験装置を用いると、縮小模型実験であっても、実大スケールでの振動台実験と同じ応力状態を再現できるのです。

遠心載荷実験用建築物の試験体の全景(左)および断面図(右)

実験と数値解析の結果、杭をはじめとする建築部材が崩壊に至るまでの累積損傷度の評価式を提案することができました。また、杭材の種類によって、水平剛性や耐力(建築部材が破壊せずに負荷や外力に耐えられる力)が異なることから、杭の崩壊のパターンも異なることや、地盤相対密度が杭の崩壊プロセスに影響を与えていることも明らかになりました。

複数回の地震動を受けた場合の、建築部材の損傷の程度を把握することができるようになったのですね。

ただし、複数回の地震動による崩壊について考える場合、長時間にわたって震動を受けた各部材の塑性変形能力(塑性変形に対する抵抗の程度)を把握し、累積損傷度との相対関係について考える必要があります。

累積損傷度に関しては、準備研究で提案した算定法を用いれば把握できます。そこで、本格研究1年目には杭の塑性変形能力について詳しく調べるため、鋼管杭の杭頭部接合部(杭頭部に充填されているコンクリートやずれ止め)を模した実大スケールの試験体を製作し、載荷実験を行いました。

実際の建築物に用いられる杭頭部接合部の内部構造:右図では、「中詰めコンクリート」とされているのが、充填コンクリート部分にあたる

なぜ、杭の中でも、杭頭部接合部に着目されたのですか?

杭頭部には最も大きな応力が作用することため,鋼管杭頭部に充填されるコンクリートには、杭頭部の局部変形を抑えて、杭体の塑性変形性能を向上させる働きがあります。そのため、杭頭部接合部の効果について調べることで、鋼管杭全体の塑性変形能力をより詳しく把握できるのです。

なお、この実験により、ずれ止めを介して鋼管部分から充填コンクリート部分に応力が伝わることがわかりました。そこで、ずれ止めの形状の違いにより、応力伝達機構にどのような違いが生じるのかを調べるため、杭頭部接合部の縮小模型と実大スケール模型を用いて追加実験と数値解析を行いました。

これらの実験と数値解析の結果、杭頭にコンクリートを充填した鋼管杭の塑性変形能力と終局耐力(部材が完全に破断してしまう時に作用する応力)の評価式を提案することができました。

複数回にわたる長周期巨大地震動や地盤の液状化が超高層建築物に甚大な影響を及ぼしていること、その対策が十分になされていないこと、そして、杭に着目した建築物倒壊メカニズムの解明に取り組むことの重要性が、よく理解できました。次回は、鋼以外の杭材の崩壊メカニズムの検証や、大型遠心載荷実験装置を用いた超高層建築物の倒壊実験などについてもお伺いします。

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