HOME > 研究者 > 木村祥裕先生 > 複数回の長周期巨大地震動を受ける杭・超高層建築物の機能損傷メカニズムの解明(第1回)

世界有数の地震大国である日本では、今後30年以内に70%の確率で東海・東南海・南海地震(南海トラフ地震)が発生し、甚大な被害をもたらすと予測されています。特に都市部では、超高層建築物の倒壊が死者や負傷者の発生、救援活動の遅れなどを招くと懸念されており、その要因として挙げられているのが長周期巨大地震動による共振現象、そして複数回の地震動によって引き起こされる地盤の液状化現象です。 

これらの現象が超高層建築物にどのように作用し、倒壊を引き起こすのか。被害の深刻化を防ぎ、安全・安心な社会を実現するために、超高層建築物の機能損傷メカニズムについてご研究されている木村祥裕先生に、お話を伺います。

まず、先生が建物を支える基礎(杭基礎)の被害に注目された理由について、教えてください。

私はもともと柱や梁など建築物の上部構造の崩壊について、力学的な観点から研究していました。その過程で、上部構造で起こる破壊のメカニズムを、杭基礎などの下部構造にも適用できないかと考えるようになったのです。

その際に注目したのが、地盤の液状化現象です。液状化とは、水を多く含む地盤に地震動や衝撃が加わり、地盤を構成する土や砂の粒子が水に浮いた状態になることで起こる現象で、建物被害や地盤沈下などを引き起こします。

そこで私は、地盤の液状化によって杭にどのような力が作用し、杭の座屈(柱などに圧力を加えたときに、ある限度を超えると変形が増大する現象)や崩壊を引き起こすのかについて関心を持ち、2004年頃から研究を始めました。

液状化現象は埋め立て地や、川沿いや海沿いなど軟弱な地盤で発生しやすい

2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、仙台市も大きな被害を受けました。液状化現象も問題となったのでしょうか?

東日本大震災では津波被害が注目されましたが、液状化現象も大きな被害を引き起こしました。仙台市でも地盤液状化による家屋被害などが発生しましたが、震源地から500km以上離れた東京湾沿岸部でも広範にわたって地盤が液状化し、杭基礎の破壊やそれに伴う建物の傾斜を引き起こしています。

東日本大震災では、「長周期地震動」という言葉もよく耳にしました。

「長周期地震動」とは、地震の揺れが1往復するのにかかる時間が長く、ゆっくり揺れる地震動のことを意味します。そして、高層の建物ほど大きくゆっくりと揺れる傾向にあることがわかっており、建物が揺れる周期と地震動の周期が一致すると、建物の揺れは増幅します。これを「共振現象」といって、上層階では数メートルにも及ぶ水平方向の振動が生じます。それに伴い、中低層建築物に比べて数倍の変動軸力(地震力など、水平方向の力により柱や杭に生じる軸力)が杭に作用し、建物の崩壊を引き起こすおそれがあるのです。

長周期地震動は、高層建築物に大きなダメージを与える可能性があるのですね。熊本地震(2016年)のように複数回起こる地震の場合は、どのような影響があるのでしょうか。

熊本地震では、最大震度が6弱以上の地震が3日間で7回発生しました。複数回にわたって大地震動が発生すると、応力(外力を受けた部材の内部に発生する力のこと)が繰り返し杭体にかかることで損傷が蓄積し、最終的に杭基礎が崩壊してしまうおそれがあります。

また、短期間に複数回の地震動が発生した場合、地震動のたびに液状化が起こることで、地盤特性が変化します。そうすると、杭や建築物の振動の性質が変化して杭に損傷が蓄積したり、柱や梁が大きなダメージを受けるおそれがあるのです。

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