HOME > 研究者 > 木村玲欧先生 > 幅広いステークホルダーの防災リテラシー向上を目指す「防災・減災教育ハブ」の構築(第2回)

災害が頻発する日本においては、防災リテラシーの底上げが重要であるという考えのもと、防災の知識や知恵を共有するための「防災リテラシーハブ」を立ち上げ、防災教育の体系化を進めてきた木村先生。コンテンツの内容や教育プログラムを現地に赴いて実践し、フィードバックを進めていく段階で、新型コロナウイルスという思わぬ壁が立ちはだかりました。インタビュー第2回では、その壁をどのように乗り越えたのか、お伺いしました。

前回のインタビューでは、「防災リテラシーハブ」の構築と、教育プログラムの開発と実践について伺いました。先生や研究室の学生さんたちも現地に赴いて、開発された教育プログラムの実践に取り組んでおられるのですね。

教育プログラムをより良いものにするためには、実践を通じて得られる経験が重要です。本助成の審査員の先生方にも「ただのシステム開発ではなく、防災・減災をめぐる社会の動きを変えることにつながるような実践的研究にしてほしい」、「開発したハブを防災教育・研修・訓練の実践現場をモデルケースとして実証実験することが重要ではないか」と背中を押していただきました。私やゼミの学生たちが直接実践するだけでなく、現場の先生のお話を伺い、実際に教育プログラムを使っていただき、その結果を検証するという取り組みも続けてきました。

ところが、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大し、対面方式での打ち合わせや、教育現場に赴いて教育プログラムを実践することが難しくなってしまったのです。

研究の進めかたに、大きな方向転換が必要になったのですね。

オンラインでできることは何か。着目したのが「指導案」による共有です。指導案とは、教育プログラムの狙いや、効果的な進め方を記した書式で、教育者にとって台本のような役割を果たします。実は一般の授業などにも指導案があり、それによって教育の質が担保されているのです。防災教育においても、教育プログラムを効果的に実践するための鍵は指導案にある、と考えていました。

そこで、これまで特に公開される機会のなかった指導案を、コロナ禍をきっかけに防災リテラシーハブ上で積極的に公開することにしたのです。そうすれば現場で直接的に交流しなくても、どんな教育をされているのかを知ることができ、指導についての意見交換も可能になります。コロナ禍をきっかけに力を入れるようになった試みですが、思わぬ成果もありました。これまで個人的に防災教育活動を行ってきた、という先生、そして地域の人がおられます。そのような方の教育のノウハウを「指導案」という形にすることで、個人の知恵が継承できるようになったのです。

コロナ禍でも「指導案」に着目することで、防災教育の研究は新たな展開を迎えた

指導案を共有する、という切り口で、コロナ禍でも新しい展開が得られたのですね。とはいえ、新しく指導案を作る場合は、教育現場はともかく、指導案を作り慣れていない人たちにとってはハードルが高そうですが……

その通りです。そこで、指導案作成をサポートするツール、「指導案ジェネレーター」の開発に取り組みました。指導案のフォーマットを防災リテラシーハブで公開し、ウェブ上で指導案を作成するためのシステムです。自由に活用していただくことも想定していますし、「教えたい」という意思を持つ方に、私たちがインタビューをしながらフォーマットに沿って入力し、指導案を完成させることも考えています。地域の人にとって、教育プログラムのもととなる「教えたいこと」はあっても、それをどうやって伝えていったら良いのか分からないというケースは、実は多かったのです。

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