教育プログラムをより良いものにするためには、実践を通じて得られる経験が重要です。本助成の審査員の先生方にも「ただのシステム開発ではなく、防災・減災をめぐる社会の動きを変えることにつながるような実践的研究にしてほしい」、「開発したハブを防災教育・研修・訓練の実践現場をモデルケースとして実証実験することが重要ではないか」と背中を押していただきました。私やゼミの学生たちが直接実践するだけでなく、現場の先生のお話を伺い、実際に教育プログラムを使っていただき、その結果を検証するという取り組みも続けてきました。
ところが、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大し、対面方式での打ち合わせや、教育現場に赴いて教育プログラムを実践することが難しくなってしまったのです。
オンラインでできることは何か。着目したのが「指導案」による共有です。指導案とは、教育プログラムの狙いや、効果的な進め方を記した書式で、教育者にとって台本のような役割を果たします。実は一般の授業などにも指導案があり、それによって教育の質が担保されているのです。防災教育においても、教育プログラムを効果的に実践するための鍵は指導案にある、と考えていました。
そこで、これまで特に公開される機会のなかった指導案を、コロナ禍をきっかけに防災リテラシーハブ上で積極的に公開することにしたのです。そうすれば現場で直接的に交流しなくても、どんな教育をされているのかを知ることができ、指導についての意見交換も可能になります。コロナ禍をきっかけに力を入れるようになった試みですが、思わぬ成果もありました。これまで個人的に防災教育活動を行ってきた、という先生、そして地域の人がおられます。そのような方の教育のノウハウを「指導案」という形にすることで、個人の知恵が継承できるようになったのです。

コロナ禍でも「指導案」に着目することで、防災教育の研究は新たな展開を迎えた