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幅広いステークホルダーの防災リテラシー向上を目指す「防災・減災教育ハブ」の構築(第2回)

兵庫県立大学

Reo Kimura

防災教育の体系的な展開を視野に入れておられるのですね。教育を受ける側には、どのような心構えを期待されますか。

「防災リテラシーハブ」のようなサイトを活用して、多くの人が防災の知恵を共有すること、そしてサイトにある指導案などの教材を使って、教育・研修・訓練などでさらに多くの人に拡げていくことが大切だと思っています。災害に遭うことは、病気や事故ほど頻度が高くないため、「運が悪かった」と片付けられてしまいがちです。しかし、本来誰しも人生で何度かは遭遇しうる「リスク」であると認識して、「わがこと意識」を持ってほしいと考えています。

新学習指導要領において、高等学校では地理総合が必履修科目となり、その中で防災の項目が明記されるなど、学校現場でも防災教育の気運は高まっています。ゆくゆくは小学校や中学校の義務教育の中で教科学習のようなかたちで授業内容に盛り込まれて、幼い頃から防災への「わがこと意識」と防災知識が自然に身に付く状態を目指しています。

防災には一人ひとりの心構えが大切であることがよく分かりました。先生ご自身は、研究者としてこの先何を追求されるのでしょうか。

この21世紀は、南海トラフ地震や首都直下型地震、気象災害など、さまざまな自然災害が日本列島を襲うであろうことが科学的に予想されています。防災への「わがこと意識」を広げて全体の底上げをしなければ、災害に対応できません。私の原動力は、「多くの人を変えられる仕組みを作りたい」という想いです。実験室で完結する研究より、人と繋がり、人の意識を変えていくことに力を注ぎたい。これからも一人の防災心理学者として「災害にどのように立ち向かっていけばよいのかという視点を保ちつつ、理学、工学、他の社会科学分野の研究者と連携をとって、学際的な研究を進めたいと思っています。

研究室前の廊下には、研究成果を報告するポスターが所狭しと並ぶ

最後に、セコム科学技術振興財団の一般研究助成を受けられた感想をお聞かせください。まず、申請された経緯を教えていただけますか。

私の周りには興味深い研究をされている方々がたくさんいらっしゃいます。その研究内容について調べていると、セコム科学技術振興財団の助成研究者の紹介ページに行き当たることが、よくあったのです。皆さん、ご自分の持ち味を活かしてさまざまな試みをされているという印象を受けました。それができるのは、研究助成の方針が研究を計画通りに遂行することよりも、最終的に良い成果を社会に出すことを重視し、計画変更にも柔軟に対応されているからだと思ったのです。

私自身の研究においては、これまで蓄積してきた成果を活かして、ブレイクスルーになるような大きな研究をして、次のステップに進みたいという段階でした。一般研究助成を受けることができれば、やりたい研究が実現できると思ったことが応募のきっかけになりました。

実際に研究を進めるうえで、この助成のメリットを感じられたのはどんなところでしょうか?

助成期間が長いことに加えて、準備研究期間をいただいたことで、研究の方針や進め方をより深く考え、必要な修正をすることができました。そのおかげで研究全体の質が向上し、より意義のある成果が得られたと思います。また、面接選考で先生方から有益なご助言を多数いただき、それらをフィードバックする機会をいただいたことにも感謝しています。

防災教育のように社会を変えることを目指す研究は、科学的な真理を解明する研究に比べて周りの評価を得にくく、助成対象になりにくいのが現実です。セコム科学技術振興財団の助成の特色として、「安全安心」を追求する研究を評価していただけることがありがたく、励まされています。

ここ数年は自然災害が頻発するとともに社会の目が防災に向き始め、「安全安心」な社会への過渡期とも感じておられる木村先生。一人でも多くの人の意識を変えることを目指して、これからも研究を続けていく

防災リテラシーハブが広く利活用され、国民一人ひとりの防災の知識が深まることを祈っております。長時間のインタビューにご対応いただきまして、ありがとうございました。

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