HOME > 研究者 > 木村玲欧先生 > 幅広いステークホルダーの防災リテラシー向上を目指す「防災・減災教育ハブ」の構築(第1回)

災害大国とも呼ばれる日本。21世紀に入って自然災害はさらに巨大化し、南海トラフ地震や首都直下型地震、地球温暖化による気象災害への懸念も高まっています。大災害に翻弄されることなく乗り越えるためには、普段から国民一人ひとりの防災意識を高め、知識を深めることが重要です。しかし現状では、防災の知識を持っている人からそうでない人へ、充分な伝達がされているとはいえません。防災知識を社会全体で共有し、災害への対応力を高めることを目指して研究を続けておられる兵庫県立大学の木村玲欧先生にお話を伺いました。

木村先生は心理学がご専門と伺っています。防災の分野で研究を始められたきっかけを教えてください。 

大学に入学した頃はマーケティングやデジタルメディアにおける心理学に興味がありましたが、大学1年生が終わろうとする平成7年1月17日に日本を襲った阪神・淡路大震災が転機になりました。兵庫県西宮市に住む親戚の自宅が全壊し、関東にある私の家に家族で避難して来られたのです。明るい性格だった親戚が震災を境にすっかり気落ちしてしまい、部屋からも出てこない状態を目の当たりにして、災害がこれほど人を変えてしまうということに衝撃を受けました。災害に直面した人間の心理が理解できない自分に不甲斐なさを感じると同時に、そこからどうやって立ち直っていくのか、また、周りはどのように支えればよいのかを考えるようになりました。

その後も災害が人の心理に及ぼす影響を研究したいという思いは消えず、マーケティングやデジタルメディアから防災へと心理学のフィールドを移すことになりました。

阪神・淡路大震災の後も、日本は何度も大きな災害に見舞われていますね。東日本大震災も記憶に新しいですし、近年では毎年のように大規模な風水害が報告されています。日本社会における災害への備えについて、先生はどのように見ておられますか。

頻発する災害を受けて、社会全体の防災意識は高まってきたと感じています。特に東日本大震災以降、さまざまな取り組みが行われてきました。たとえば文部科学省では、モデル地域・モデル校の防災教育を推進する支援事業を行ったり、学習指導要領に防災に関する学習を横断的に組み込んだりと、防災教育を重視した動きが見られます。

一方で、市民一人ひとりに災害への備えができているかは別問題です。現時点では「防災」が教科学習として体系的に学べるわけではなく、学校で避難訓練をするにしても先生の指示に従って避難するだけでは、実際の災害時に役立つ判断力は身に付きません。平成29年に内閣府が行った世論調査の結果によると、災害に対して何かしらの備えをしている人は過半数に満たないのが現状です。災害が起こってしまった場合、備えができている特別な人が一人いても、すべての人を救えるわけではありません。社会を構成する一人ひとりの防災リテラシー(災害に立ち向かい、乗り越えていくために必要な能力)を底上げする必要があります。

内閣府(2018)防災に関する世論調査(平成29年11月調査)より「大地震に備えている対策」

防災の意識は高まっていても、実際に災害への備えができている人は多くないのですね。

社会全体での防災意識が高まるにつれて、災害への備えをしなければならないと思いながらも、何から始めれば良いのかわからない、という人が増えていると感じています。

災害に関する知見や防災のための知恵を、知識が豊富で防災意識の高い人たちだけの手元に置いておくのではなく、みんなが共有できるシステムを作れば「具体的に何をすれば災害への備えになるのか分からない」という人たちの助けになる、と考えるようになりました。そうして着手したのが「防災リテラシーを身につけるための学習プログラム整理・体系化サイト(Literacy HUB)」の開発です。

防災の備えをしなければと思いつつも、何をしたら良いのか分からないという人をサポートしたいという思いがハブサイトの着想に至った
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