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幅広いステークホルダーの防災リテラシー向上を目指す「防災・減災教育ハブ」の構築(第1回)

兵庫県立大学

Reo Kimura

防災リテラシーハブに登載される「防災教育プログラム」の開発も、先生の研究の柱と伺っています。これは、防災について体系的に学ぶことのできるプログラムということでしょうか?

もちろん、体系的に学べるプログラムも準備しています。一方で防災教育の難しいところは、地域やステークホルダーの特性によって、必要な情報や訓練が異なることです。

たとえば、地球温暖化の影響で近年増えているのが、大雨による風水害です。これに備えるには、大雨が降った時に自分の住む地域では何が起こりうるか、たとえば川が氾濫する恐れがある、土砂崩れの危険性が高いなど、その地域のリスクを知っておくことが大切です。さらに、「子ども」「地域」「企業」「自治体」など、さまざまなステークホルダーにおいて、学習目標を明確にした教育プログラムをそれぞれに準備する必要があるのです。

一律の教育プログラムではなくて、地域やステークホルダーの特性に合わせた教育プログラムこそが防災には有効なのですね。具体的には、どのようなプログラムを開発されているのですか。

2009年に豪雨災害に襲われた兵庫県佐用町では、それ以来、災害の教訓を伝えることを目的に、毎年「まちあるき防災学習が行われています。小学生の子どもたちが地域の被災者の方と一緒に校区を歩いて、災害時の様子について学びます。そうして得られた情報や、気づいたこと、自分の感想や意見を共有し、一枚のハザードマップを完成させるという取り組みです。

佐用小学校まちあるき防災学習の様子。校区を歩いたあと、意見を出し合ってまとめている様子

自分の地域の特性を知れば、災害を「わがこと」として意識できますね。他には、どのようなステークホルダーを対象に教育プログラムを実践されていますか。

岡山県の保育園に赴いて、子どもたちとその親御さんを対象に防災教育を行っています。飛散ガラスの危険性を知るために卵の殻の上を歩いてみたり、ハイゼックスという特殊な袋でお米をゆでることで調理するなど、災害の擬似体験をしながら備えの大切さを学んでもらっています。12月に行った「クリスマス防災」では、ペットボトルランタンを作って災害時の明かりや電気の大切さを伝えたり、キャンディレイを作って食べ物の大切さを再認識したりしました。小さいお子さんを対象とする場合は、特に楽しみながら防災意識を高めてもらえるプログラムを意識しています。

また、「地域」というステークホルダーを対象にした教育プログラムの例として、神戸市消防局が自主防災組織を統括するリーダーを養成するために実施している「神戸市防災マネジメント研修」という取り組みがあります。この研修では「自分・地域がすべき自然災害への対策・備え」「対策・備えを一層進めるための戦略」の2点について、地域の方々とともに考えるワークショップを行っています。

保育園の防災教育プログラムでは、卵の殻の上を歩いて、飛散ガラスの危険性を実感する

国民一人ひとりの防災リテラシーを高めることを目指して構築された「防災リテラシーハブ」についてご説明いただきました。現地に赴いて実践された教育プログラムもご紹介いただき、具体的なイメージが湧きました。次回は、コロナ禍で実践研究が想定どおりに進められないなか、着眼点を変えて新境地を開いたお話を伺います。

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