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アンジュレータ型潮流発電機の開発(第1回)

東京海洋大学

Tetsuya Ida

コイルの改良についても教えていただけますか。

当初は単純な渦巻型コイルの使用を想定していたのですが、電磁界シミュレーションの結果から、得られる発電出力が小さいことが分かりました。そこで、コイルの中心に鉄芯を入れることを考えました。しかし、シミュレーションでは鉄芯中の磁力が強まるだけで発電出力は上がらず、効果はほとんどありませんでした。

一方で、シミュレーションのデータを詳細に見ると、鉄芯の近傍だけコイルの磁場が強くなっていることに気づきました。そこで、コイルの銅線の層の間に薄い鉄板を挟む「多層鉄芯入渦巻型コイル」という構造を発案しました。コイルの加工には試行錯誤を繰り返して苦労しましたが、その甲斐あって、完成したコイルでは全体の磁束密度が増加し、総出力を飛躍的に高めることができました。

多層鉄芯入渦巻型コイルの構造と試作風景。特殊な構造のため外注できず、研究室で手作りしている

新しい発想と、それを実現する技術が結実した発電機ですね。具体的にはどれくらい出力が上がりましたか。

シミュレーション上では、初期の発電機のおよそ12倍もの出力が得られています。これから行う海での実証実験でシミュレーション通りの値が再現できるとは限りませんが、当初目標としていた30kWは大きく超えられるだろうと期待しています。

ちなみに、超伝導を利用すればもっと大きな出力が得られますが、同時に装置の冷却が必要になります。その場合は、大規模なスケールの発電でなければ採算が合わないのです。このプロジェクトでは小型で発電効率の良い発電機を目指しているため、現状のモデルで目的に対してほぼ最適化できたと考えています。

シミュレーションに欠かせない専門のソフトウェアが装備されたPC。「この部屋のPCとソフトウェアは助成金によるご支援で購入しました」と笑顔の先生。研究費を節約するため、パーツを購入して組み上げた

目標とする発電出力を達成し、いよいよ実用化が見えてきました。ちなみに、発電効率という観点では、回転型の潮流発電機と比べていかがですか。

回転型発電機の発電効率には、特有の限界値があります。タービンの後方では流体の速度が落ちるため、新しく来た流体は、タービンの後方にある流体を押すエネルギーが余分に必要になるのです。発電効率の限界は理論上、59.3%と計算されています。

一方でアンジュレータ型発電機の場合は、ロッドが押し引きされるだけですから、この制限はありません。EEL Energy社の試験において62%の発電効率を実現したというデータがあり、少なくとも回転式発電機の理論限界値は超えられると考えています。

潮流発電において有力なツールとなりうるアンジュレータ型発電機。新しい発電装置の開発によって発電出力が大きく向上し、実用化に向けて大きく前進しました。次回は、今後行われる海洋実験の計画と、先生が海洋開発の分野に進まれたきっかけについてお話を伺います。

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