HOME > 研究者 > 井田徹哉先生 > アンジュレータ型潮流発電機の開発(第1回)
アンジュレータ型潮流発電機の開発(第1回)

東京海洋大学

Tetsuya Ida

先生がアンジュレータ型潮流発電機の開発に携わることになった経緯を教えていただけますか。

アンジュレータ型潮流発電機は世界で唯一、フランスのEEL Energy社が開発を進めていました。私はこの方式の発明者で、かつ、EEL Energyの前CEOであったJean Baptiste Drevetさんから、「開発中の潮流発電機が、目標とする発電出力を達成できない」という技術的な相談をいただきました。想定していた30kWの出力に対して、現実には10kW以下しか得られなかったというのです。そこで、私たちがアンジュレータ型発電に適した独自の発電装置を開発し、Drevetさんは実証実験を行って私たちにデータを提供する、という役割分担で共同研究を始めました。

具体的には、どのような開発をされたのですか。

アンジュレータ型潮流発電機は、メンブレンがうねることによって磁界の中をコイルが左右に動き、発電するシステムです。そこで、発電機内部の磁界を強化するとともに、コイルの改良を行って、発電出力の向上を目指しました。

まず、磁界の強化について説明しましょう。発電機の内部には、デュアルハルバッハ配列という特殊な配列で永久磁石が並べられています。これは、S極とN極の向きを90度ずつ回転させて接続した磁石の列を2列向かい合わせ、列の間に強い磁界を発生させる構造です。この磁石の列の間をコイルが動くことで電気が発生します。

私たちはさらに磁界を強めるために、デュアルハルバッハ配列を二層に重ねた構造を発案しました。中間の永久磁石の層はハルバッハ配列をやめて単純化することで、磁気抵抗を低減しながらも上下のハルバッハ配列が発する磁束の集約が可能になりました。この構造は電気学会で奨励賞をいただき、現在、国際特許を出願中です。

発電機の初期構造(上)と、改良された二層のデュアルハルバッハ配列(下)

この配列を見ると、磁石どうしが反発しそうな箇所がありますね。

その通りです。これはハルバッハ配列の宿命とも言えるのですが、強い磁石を使うほど、磁石間の吸着力と反発力が強まり、構造の保持が難しくなります。

設計にあたっては、磁石の吸着力と斥力を評価して構造の保持に必要な力の大きさを求めるとともに、手当たり次第に様々な接着剤を入手しては吸着力を評価し、剥離試験を行いました。実際に材料を測定するだけでなく、電磁界シミュレーションも併用しています。そのうえで、磁石を固定するための特殊な工具を自作して、理想的な構造を実現しました。

電気や強力な磁石を扱う作業には危険が伴う。怪我や失敗を防ぐには、器用さよりも、装置や試料の取り扱いにおける注意力が重要
Copyright(C) SECOM Science and Technology Foundation