HOME > 研究者 > 井田徹哉先生 > アンジュレータ型潮流発電機の開発(第1回)

私たちの生活に欠かせない電気。持続可能な電気の供給を目指し、太陽光発電や風力発電といった、再生可能エネルギーを利用した発電システムの開発が盛んに行われてきました。しかし、国土が狭く急峻な地形の日本列島において、気象の変化に大きく左右される発電システムに適した地は決して多くありません。  

そこで近年注目を浴びているのが、海洋エネルギーを利用した発電です。海に囲まれた日本にとって、海洋エネルギー発電は将来に向けた大きな可能性を秘めています。潮流発電の実用化に向けて開発に取り組んでおられる東京海洋大学の井田徹哉先生にお話を伺いました。

太陽光や風力など、自然界の再生可能エネルギーを利用した発電の開発が進められています。先生が取り組んでおられる潮流を利用した発電には、どのような特徴があるのでしょうか。

世界規模で見ると、太陽光発電や風力発電は大きな発展を遂げています。しかし、日本にはその適地が少なく、大規模な発電は困難です。また、気候や天候などの自然条件に発電量が左右されてしまうことが課題です。

一方、潮流は月、太陽、そして地球の位置関係で発生するため、季節や気候の影響を受けません。発電量が予測可能であることは、潮流発電の大きなメリットです。実際に台風が来たときに安定した発電量が得られたというデータがあり、災害時に緊急の発電源となる可能性は非常に魅力的です。特に、世界6位という広い排他的経済水域を持つ日本にとって、今後、潮流発電は有力な発電システムになりうると考えています。

海洋大国である日本にとって、希望が持てるお話です。それではなぜ、実際には潮流発電の実用化が進んでいないのでしょうか。

潮流発電の研究においては、潮流の力でタービンを回す回転型発電機の開発が主流で、私自身も携わってきました。海中で巨大なタービンを回すには、2〜5m/秒以上の流速が必要です。しかし、ほとんどの海域で得られる流速は1m/秒程度に過ぎず、発電の条件を満たす場所は、国内でも数えるほどしかありません。しかも、流速の大きい場所は漁場としても優れていること、タービン翼への魚の巻き込みが懸念されることから、漁業関係者からの賛同が得にくいのです。これらが実用化への大きな障壁になっていました。

潮流発電は発電量が高い精度で予測可能であるが、従来の回転式発電機は巨大なタービン翼を持つため設置場所が限られる

そこで登場するのが、先生が開発されているアンジュレータ型潮流発電機なのですね。まず、回転型発電機との違いを教えてください。

アンジュレータ型潮流発電機は、多数の薄い膜(メンブレン)を繋ぎ合わせ、それぞれに小型のリニア発電機を固定しています。潮流によってメンブレンをうねらせ、その力学的エネルギーをリニア発電機によって電力に変換するシステムです。海洋生物への影響が少ない形状であること、0.4m/秒程度の流速から発電可能であること、小型であることから発電適地を選びやすく、実用化へのハードルが大きく下がりました。

大規模発電を目指すタービン型潮流発電に対して、本研究で扱うアンジュレータ型発電は、臨海部や離島における電力供給を補完する、小規模で高効率な発電を目標に据えています。

水中で駆動するアンジュレータ型潮流発電機
アンジュレータ型潮流発電機の外観とシステムの模式図
Copyright(C) SECOM Science and Technology Foundation