HOME > 研究者 > 高木康博先生 > 次世代画像入力システムを実現する高速パンチルト・リフォーカスカメラの開発(第2回)

そのレンズアレイの製作手順について、教えてください。

半導体製造時に使われる、レジストが鍵となります。半導体の回路基板が緑色であることは、皆さんご存知だと思いますが、あの緑色が実はレジストで、銅の回路パターンを保護する役割があるのです。

半導体の場合は、レジストに回路パターンを転写していきますが、レンズアレイの場合は円形に転写します。ここで難しいのが、最終形はレンズとなるわけから“適度な奥行き”が必要になることです。

レジストの円形パターンにガラスを溶かす溶剤を添加することで、ガラスと一緒にレジストが溶解します。このとき、滴下された地点のほうが、その周辺より溶解する速度が速くなるため、レンズの形状になるそうです。

なお、撮影時の画像の歪みを少なくするために、さらに非球面レンズの状態にする必要があるため、こうした要望に応えてもらった結果、製作期間が1回あたり4カ月ほどかかっています。レンズアレイの製作は費用・時間ともに、かなり大変な作業なのです。

製作を引き受けてくれる企業が少ない理由がわかりました。今後のご研究は、どのように展開されるのでしょうか。

ライトフィールドカメラの原理上、いくつかの画像に分解して合成するというプロセスが必須になるのですが、分解した時点で通常のカメラよりも解像度がダウンしてしまいます。そのため、画質のさらなる向上を目指しながら、ディスプレイに立体表示させる方向に結びつけることを考えています。外部頼みとなりますが、8Kや16Kのカメラなど、解像度が高いモデルの普及、イメージセンサ自体の性能向上などにも期待したいところです。

また、視差画像にボケとゆがみが見られるため「広角化光学系とレンズアレイの位置合わせ精度を上げる」「要素画像の中心位置の特定を実数精度で行い、パンチルトによる変化を補正する」、この2点で解決を試みます。

さらにリフォーカス処理における計算時間の短縮、広角カメラと組み合わせた高速画像追尾システムを完成させた後、実用化を検討しています。

本研究における今後の展望

それでは最後に、セコム科学技術振興財団に対して、メッセージをお願いします。

微小なレンズアレイを使用する、高額なGPUを多数動かすなど、本研究には莫大な費用と手間がかかるため、長期に渡り安定的に助成金を受け取れることに、たいへん感謝しています。また、金額が大きく自由に研究させてもらえる点に、大きなメリットを感じています。

現在、文科省など政府系の研究費は競争率が高まっているため、以前からセコム科学技術振興財団に注目していました。面接審査時に審査員の先生から有益なコメントをいただけるなど、お金だけではなく知恵を出すという姿勢に大きな共感を覚えています。これからも様々なアイディアを持った研究者の方々を支援していただけたら、非常に嬉しいですね。

高木先生(左)と、マルチGPUを使用したリアルタイムリフォーカス部を担当されている共同研究者の並木美太郎先生。元鉄道少年で、昔から写真を撮るのがお好きとのこと

本研究のカメラが実用化され、セキュリティ、学術分野が発展し、安全安心な社会へと近づくことを願っています。長時間のインタビューにお答えいただき、誠にありがとうございました。

Copyright(C) SECOM Science and Technology Foundation