HOME > 研究者 > 高木康博先生 > 次世代画像入力システムを実現する高速パンチルト・リフォーカスカメラの開発(第2回)

光をコンピューターの処理速度向上のために使用するホログラムを、立体表示ではなく情報処理のために用いるなど、研究分野を跨いだ柔軟な発想の原点は、若い頃からお持ちなのですね。

ありがとうございます。博士号を取得してからは、ホログラフィック顕微鏡について研究していた時期がありました。ホログラムで顕微鏡の映像を撮影することによって、対象を立体的に撮影でき、計算で焦点合わせを可能にしたり、可視光では透明で視認することのできないものを染色なしで見えるようにする、という研究です。

実は「ホログラムで顕微鏡を実現する」ことを始めたのは、私が世界初なのです。残念ながら、当時のイメージセンサの性能では限界があったため、研究は進展せず、中止せざるを得ませんでした。現在はイメージセンサの性能が格段に向上し、ようやく実現可能なものとなったため、注目され始めた研究分野です。今は頻繁に、論文を引用してもらっています。

世界中の研究者の間では「名前は知られているが、なぜか分野内に存在しない人」として有名になのかもしれませんね。

今でも、その方面で復帰しようか迷うことがあります。東京農工大学に移ってから「何か新しい研究を始めよう」と思い、現在の立体表示を研究するに至ったわけです。

ただし、光に注目したのは、大学生になってからではありません。幼少期から「光って音が出るもの」が大好きだったので、そこが真ルーツと言えます。

3Dディスプレイに話を移しますが、先生はカメラで撮影した立体情報を、ディスプレイで表示する件で、企業と共同開発をされているそうですね。

はい、株式会社IMAGICA Lab.様と3Dディスプレイの共同開発に取り組んでいます。高速パンチルト・リフォーカスカメラで撮影した立体映像を、ライトフィールドディスプレイで表示するというものです。「どの角度から見ても、本来その角度から見えるはずの映像」を再現することができます。

余談ですが、二次元ディスプレイの開発は、解像度をあげてダイナミックレンジやフレームレートを上げ続ければいいだけです。ですが、立体の場合は、右目と左目に写る映像の違いを脳に立体として知覚させる必要があり、そこが難しいところですね。大学院時代、恩師の研究は関係ないと思っていましたが、今になって役に立っているとは不思議なことです。

夢のディスプレイとも呼ばれるライトフィールドディスプレイは、実験画像においては、どこから見ても、実際に見える角度の映像が見えるようになっている

今回の助成研究を進行されるにあたって、一番苦労したことは何でしょうか。

やはり、レンズアレイでしょう。まず試作してくれる工場を探すのにひと苦労しました。最初は東北の有名企業に頼んだのですが、大量生産品以外は対象外ということで、現段階のような試作品製作は受け付けてもらえませんでした。やっと見つかったのがU電機様で、社内品で良ければという話で製作してもらえることになりました。お互いにとって共同研究という形になりますので、試行錯誤の繰り返しです。

なぜここまで苦労したのかというと、今回のカメラに使用するレンズアレイのピッチは0.1mm、普段使用している立体ディスプレイのレンズアレイが1mmで、10分の1程度の大きさになるため、製作プロセスのすべてにおいて取扱が非常に難しいからです。さらに、最初から既製品の型があるわけではありませんから、1回試作するだけでも約100万円近くの費用がかかるなど、非常に高額なものになります。

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