HOME > 研究者 > 高木康博先生 > 次世代画像入力システムを実現する高速パンチルト・リフォーカスカメラの開発(第1回)

わずか0.1mm動かすだけ、とは驚きです。このレンズアレイをカメラに使用するとは、まさに逆転の発想ですね。ですが、わざわざ極小のレンズアレイを用いなくとも、高速追尾するカメラがあるのではないでしょうか。

従来型のカメラで、高速追尾が可能なものは存在します。たとえば、回転ミラーであるガルバノミラーを設置して、高速対応するシステムです。しかし、モーター駆動のため耐久性に問題があると同時に、装置が大型であり、撮影スタジオなどの特殊な環境下でしか使用できません。将来的に、一般人が普通に屋外で使用することには不向きなのです。それでも早く動かそうとすると、ミラーを小さくする必要がありますが、小さくすると画質が下がります。また、広角カメラによる対象物画像領域を切り出そうとしても、解像度が極端に低下するという弱点があります。

これに対し本提案方法では、ピエゾ素子などによる電気なレンズアレイの変位を用いるため、パンチルト速度については従来法に比べて無理なく高速になります。また、モーターのような物理的駆動が少ないことから耐久性が高く、大量生産が可能になり、明確な差別化ができるのです。

しかも、従来の撮影原理とは異なる、写真を撮影してから自由に焦点を変更することができる「ライトフィールドカメラ」を用いているため、撮影後に焦点を変更することができるというメリットがあるそうですね。

はい。撮影後に立体表示ができるだけでなく、焦点を変更する「リフォーカス処理」まで可能になるのです。2020年には東京オリンピックが開催されます。本研究のカメラを監視システムなどに導入すれば、被写体にカメラを意識させることなく撮影を続けられますから、プライバシーの侵害が生じにくくなります。また、撮りためた大量の画像をビッグデータとして、AIで一気に解析をかければ「じつは不審者が防犯カメラに写っていた」というようなことも判明します。日本の防犯技術の高さを世界に示す、よい機会にもなるでしょう。

さらに、敏捷なスポーツ選手の臨場感溢れる映像を余すところなく撮影できれば、運動解析に役立つかもしれません。顕微鏡に使用すれば、狭い視野からすぐに移動してしまう微生物などを確実に追尾できますから、学術分野の発展にも貢献することができます。

本研究「高速パンチルト・リフォーカスカメラ」の応用例

それでは先生が開発中の、高速パンチルトを可能にしたリフォーカスカメラについて、その原理を教えてください。

最初に、このシステムをカメラに搭載できるようになった経緯についてご説明します。

実は研究を開始した当初は、4Kカメラの選択肢が少なかったため、高速パンチルト部とライトフィールドカメラを別々に開発する予定でした。ですが実験中に、イメージセンサーの開発が急速に進んだことで、性能はそのままに、より小型である4Kカメラを選択することができるようになりました。そして、そのカメラを選択することで、高速パンチルト部とライトフィールドカメラを一体化させることができたのです。ここまでが本格研究1年目の成果となります。

それにより、システムの大幅な単純化が実現したわけですね。

はい。ただ、1年目の最大パンチルト角が最大で25°と少々不足気味だったため、2年目には30°を目標値に設定しました。これを実現するためには、レンズアレイの短焦点化が必須となります。メーカーと試作を重ね検討を繰り返しましたが、うまくいかず断念しました。そこで新たに「広角化光学系」を導入、方針を変更して、可能にしたわけです。

下図の「高速パンチルト部」をご覧ください。ピエゾアクチュエーターの圧電効果によって、レンズアレイを変位させて、光軸の大きな偏向を可能にしています。つまりピエゾアクチュエーターへの印加電圧が変位に変換され、レンズアレイを動かすようにしているのです。この図では、5枚のレンズアレイを載せていますが、実際には2枚で大丈夫です。

パンチルト角30°を実現する、レンズアレイ単焦点化の提案
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