HOME > 研究者 > 堀切智之先生 > 無条件安全通信による次世代セキュア通信環境の開発(第2回)

量子通信のグローバル化は、まだまだ遠いのでしょうか。

世界各地で量子インターネットのプロトタイプが立ち上がり、提供可能な範囲で互いに技術提供し、協調して進めていくことができれば、グローバルな量子インターネットは実現できると考えています。

そのときに日本が遅れをとらないよう、多くの若手研究者が必要です。私が20年前に新聞記事を見て量子情報という分野に興味を惹かれたように、世間が注目するほど、この分野を盛り上げていかなければなりません。

しかし、量子通信分野は研究者の数がとても少ないです。これまでは私を含め、当時スタンフォード大学にいらした山本喜久先生のプロジェクトが、サマースクールなどを通じて若手研究者を育成してくれていましたが、それらのプロジェクトもすでに終了してしまいました。現在、日本で量子通信の開発研究に携われる博士号を持った研究員は、本当に少ないのです。

参入者が増えないのは、実験装置が高額だからでしょうか?

レーザーを使う分野はもともとお金がかかる上に、量子メモリの開発には液体ヘリウムを使う冷凍機が必要なことが多いのです。基礎研究のフェーズでも、1台1000万円以上もかかる機械を複数台そろえなければいけません。

私もアイデアはありましたが、なかなか研究を始めることができませんでした。研究をスタートさせ、ここまで成果を出すことができたのは、ひとえにセコム科学技術振興財団の一般研究助成に採択され、破格の援助をいただいたおかげです。面接ではかなり厳しいご指摘があり、これは無理だと落ち込んでいたところに採択の通知が届いたので、本当に嬉しかったです。

実験室には、波長変換装置、量子もつれ光源の装置など、数多くの装置が並ぶ。先生の前にあるのは量子メモリを収めた冷凍機

情報通信分野における最先端技術ですから、何としてでも活性化してほしいところです。

長距離量子通信は、夢がある分野です。長距離量子通信により量子コンピュータを繋ぐこと等を通じて、私たちの日常生活にどのような恩恵があるのかは、まだわかっていません。それは30年前の、インターネットが何の役に立つのか、その可能性を誰も推し量ることができなかった時代と似ているように思います。

今はセキュリティ以外の具体的なサービスがあまり見えていませんが、いつか私たちの生活になくてはならないものになると信じて、研究を続けています。

スマート社会が実現すれば、扱うデータが格段に増えますから、そのときこそ量子コンピュータの出番ですね。

量子コンピュータの開発も一層進む必要があると思いますし、そうなっていく可能性はあると思います。それまでに量子コンピュータ同士を接続して使える技術や、クラウド化されて個人ユーザーが使用できる量子コンピュータに、計算内容や結果が残らないセキュリティの仕組み作りなどが重要です。

また、現在においても、稼働中の原発に関わるデータや、河川の水門の開閉に関するサイトがアクセス可能だったことが判明した事例があるなど、セキュリティの意識がますます強く求められています。この分野の研究をどんどんアピールし、量子通信・量子インターネットの可能性に対する議論が社会で活発に行われるようになればと願っています。

量子通信分野はサイエンスというより、エンジニアリングに近い。実験はほぼ学生に任せて、自分の手で操作し、予想通りの結果が出た時の喜びや、うまくいかなかった時の試行錯誤の楽しさを存分に味わってもらっている

長距離量子通信にもっと注目が集まり、国内でも研究者が増えてこの分野が活性化することを、心から祈っております。2回にわたり、専門性の高い内容について大変わかりやすくお教えいただき、誠にありがとうございました。

Copyright(C) SECOM Science and Technology Foundation