HOME > 研究者 > 本間尚文先生 > 高安全・高信頼な情報通信のためのトロイフリーLSIシステム設計・検証技術の開発(第2回)

HTが社会問題になっている今、このご研究には多くの半導体メーカーが注目しているのではないでしょうか。

日本には半導体を作っているメーカーはありませんが、海外メーカーから話がくることはあります。ただ、研究を始めたばかりのころは、ここまで大きく扱われるようになるとは思いませんでした。ハードウェアにトロイが混入されることでどのような問題が生じるのか、あまり理解されず、研究成果を投稿できる学会もあまりありませんでした。

先生は以前、パリ高等情報通信大学の客員教授をされていたようですが、当時はフランスのほうが暗号回路の研究が進んでいたのでしょうか。

フランスは有名な数学者を多数輩出している国であり、歴史的に数学に強く、暗号分野においても優れた研究が行われています。

暗号の研究を始めて5年くらい経ったころ、学会で知り合った方に誘われて、初めてフランスに渡りました。当時はフランスでも暗号回路の分野ができたばかりだったため、一緒に研究をしたフランス人研究者とは、黎明期を共に過ごした同志という関係です。その後も2回くらい訪れる機会があり、暗号回路の分野がフランスでどんどん大きくなっていくのを実感することができました。最初の渡仏から10年以上が経ちましたが、現地で素晴らしいご縁に恵まれて、今も共同研究を続けています。

そうしているうちに、日本でも急速にこの分野が産学官で注目されるようになりました。最初こそ戸惑いましたが、今は良いタイミングに恵まれたと思っています。

一般研究助成に採択されてから、研究に変化はありましたか。

申請したときは電気通信研究所に移動したばかりで、実験台をはじめ什器が一切ない、がらんどうの研究室でした。多くの研究助成制度では、什器の購入は研究費として認めてもらえませんが、この一般研究助成に採択されたおかげで、早々に研究環境を整えることができました。研究に必要なものとして助成金の使用を許容していただき、本当に感謝しています。

また、4年という長期間もありがたいと思っています。実はZDDに基づく形式記述が有効であると気づいて研究に取り入れたのは、採択された後です。もし助成期間が1年や2年だったら、拙速に異なる手法を取り入れたり、ここまで研究を進めることはできなかったかもしれません。

現在は量子コンピュータにも解読されない、新しい暗号方式の研究が始まっています。この技術が新しい暗号方式にも適応可能か、量子コンピュータのハードウェアセキュリティにはどのように活用できるのか等、今回の研究成果を生かし、発展させていくつもりです。

脆弱な部分をどのように強化し、全体の安全性を底上げしていくべきか等、ハードウェアセキュリティは研究テーマが尽きない

LSIの仕様設計からシステム実装まで、これまで十分なHT対策がとられていなかった部分に新たな技術が導入されることで、IoT社会の安全性がさらに向上されると期待しています。長時間の取材にご協力いただき、ありがとうございました。

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