HOME > 研究者 > 林健司先生 > 分子を認識する二次元プラズモニックガスセンサアレイによる匂いの痕跡識別システム(第2回)

最終的にはロボットを災害現場での人命救助に活用したいとのことですが、現時点で課題はありますか? 

匂い識別ロボットは、定点で静止させて匂いを観測することはできるのですが、動かしながら匂いを観測しようとすると、困難さが格段に上がり、うまくいかないことが多々あります。また、匂いは「立ち昇る」イメージがあると思いますが、実際はセンサのある場所まで匂いがたなびくように断片的にしか届いていないこともあるので、その部分を考慮した計測・解析技術は改良の余地があると考えています。

犬は匂いの発生源を探索する際に、時間経過とともに変化する匂いの“揺らぎ”を手掛かりにしていると考えられています。匂い識別・探索ロボットも、これと同じように匂いの“時空間の揺らぎ情報”を測定し、匂いの発生源を突き止めることができるように改良を繰り返しています。

なお、現時点ではセンサの性能上、匂いがある程度強くなければ検知できません。最終的には漂っている微弱な匂いを識別できるよう、妨害物質の多い模擬災害現場で人の匂い発生場所を探索したり、人の移動経路の追跡実験を行っていく予定です。

ロボットが、先生が目標とされる災害現場での人命救助に役立つことを願っております。最後に、先生が一般研究助成に申請された経緯を教えて下さい。

大学内でセコム科学技術振興財団の助成金に関する情報が共有されており、メールが送られてきたことが直接的なきっかけです。匂い痕跡の可視化に関する研究は、災害現場での人命救助や犯罪捜査など、セキュリティ分野の発展に資するもので、以前から応募したいと考えていました。また助成額が高額であったことも魅力の一つです。

助成金はデバイスを作製するための材料と装置、センサ特性の計測装置、またデバイス作製をサポートするテクニカルスタッフの給与や学生への謝金に充てています。基本的に、デバイスはすべて研究室で手作りしています。作製には時間がかかり、劣化も早いのですが、何回も作らなければ良い物ができないので、採択していただき大変助かっています。

これから助成に応募する研究者へのメッセージをお願いします。

面接では、研究で積み重ねてきたことや、研究の波及効果や価値、また自分の研究が学術的にも先駆的であることをアピールすることが重要だと思います。特に生命科学の分野ではトップレベルの方が審査されているので、そこは心に留めておく必要があるでしょう。

研究者の判断に寄り添っていただける、とても自由度が高い助成制度なので、新しいことに取り組む研究者の方々に、ぜひチャレンジしてほしいと願います。

匂い痕跡の可視化に関する研究は、セキュリティ分野の発展にも資すると考えて応募したところ、採択していただいた。新しいことに取り組むのであれば、ぜひ一般研究助成にチャレンジしてほしい

匂いの痕跡の可視化が、安心・安全な社会の実現に資することを、心から願っております。2回にわたり、匂いの特性や開発されたデバイス、ご研究の内容などについて詳しくご説明下さり、ありがとうございました。

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