HOME > 研究者 > 林健司先生 > 分子を認識する二次元プラズモニックガスセンサアレイによる匂いの痕跡識別システム(第2回)

ロボットについて、詳しく教えていただけますか?

準備研究の段階で、地面の匂い痕跡から、匂いの空間分布情報を取得できる「高速LSPRガスセンサロボット」を開発しました。このロボットには「匂いが見える鏡」が搭載されており、匂い物質を検知するとロボット上部のランプが光るようになっています。なお、このロボットの改良機も開発しています。

センサの改良では匂い物質で色が変わる色素をフィルタ膜に加え、匂いに関する情報を増やしています。300以上の波長の変化が匂い物質の情報を持っているため、センサの性能を大幅に上げることができました。

「匂いが見える鏡」を搭載した高速LSPRガスセンサロボット:従来の半導体ガスセンサよりも、スピーディーに匂いの発生源を辿ることができる

また、この改良型のLSPRフィルムを搭載した「匂い識別ロボット」(LSPRセンサアレイ搭載ロボット)も開発しています。このロボットは、人間が操作をしなくても匂いのデータを大量に、自動的に収集することが可能です。既存のロボットはセンサが応答するまで10秒ほどの時間を要するため、動いては止まるを繰り返してしまいますが、このロボットはセンサがほぼリアルタイムで反応するので、スムーズに動けるという点が優れています。

匂い識別ロボット

第1回のインタビューでもご説明くださったように、匂いには他の匂いと混ざりやすいという特性があります。複数の匂いが混在している場合、解析は困難ではありませんか?

匂いは多成分から構成され、しかも類似する成分が混在しているので、要素ごとに分解して計測することは確かに困難です。そこで、多くの異なるAu/Ag組成の金属ナノ粒子を二次元状に配列し、さらに色素−金属ナノ粒子結合によって匂い情報を増やすことで、センサの感度と、取得可能データ量の向上に取り組みました。この高機能化したセンサで取得したデータをハイパースペクトルカメラで撮影すれば、一度におよそ3,000万点の匂い痕跡画像データを取得することができます。この高い情報量を高速に取り込むハイスループットセンサは、化学情報を測定するセンサでは初めて実現されたものです

なお、取得した匂い痕跡画像データを機械学習と組み合わせれば、複数の匂いが混在していても、高い精度で匂いを識別することが可能です。現在およそ90%まで精度を高めることに成功しました。

センサの応答性が優れていること、匂いの空間分布を非接触で可視化できること、そして一度に大量のデータを取得できることが、本研究で開発したセンサの最大の強みなのです。

コロナ禍による大学閉鎖の影響で、匂い痕跡画像データと機械学習を組み合わせる実験は一時遅れが生じていたが、匂い識別精度の高度化を実現することができた
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