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腸内細菌由来新規大腸がんリスク要因、コリバクチンの発がん機序解明と予防法の確立(第2回)

静岡県立大学

Kenji Watanabe

先生は、食生活と大腸がんとの因果関係も調査しておられますね。

食生活ががんの発症を左右することはよく知られています。本研究では東京都の大島の住民を対象に、1300人分の糞便を集めて、食生活と感染との関連性を詳しく調べました。その結果、乳製品を多く摂取している人と緑茶をよく飲む人には、コリバクチン産生菌が少ないことが分かりました。

その理由は、がんの発症メカニズムを考えると理解できます。保菌者はすぐにがんになるわけではなく、コリバクチン産生菌を一定量便として排出して、爆発的な増加を抑えています。大腸内で乳酸菌がコリバクチン産生菌の量を上回る状態を保てれば、コリバクチン産生菌のはたらきを抑制できるのです。乳酸菌を増殖させるためにはマンガンが必要であり、緑茶にはマンガンが大量に含まれています。

このように、もしコリバクチン産生菌に感染していても、腸内環境を整えて産生菌を減らすことができれば、健康体でいられる可能性が高いのです。

予防こそが、がん患者を減らす最も大きな要因であり、発症する前に防ぐことが非常に重要。食生活に気を配ることによっても、がんの発症リスクを下げることができる

セコム科学技術振興財団の一般研究助成を受けられた感想をお聞かせください。

基礎科学分野の研究は、臨床的な応用がすぐに期待できるわけではないため、医学系の研究助成制度に採択されにくいのが現実です。しかし、自然科学の目で見た「なぜ?」への答えなくして、治療への道筋を立てることはできません。本研究は基礎科学的な要素の強いものでしたが、その重要性を理解していただけたことがとてもありがたかったです。

また、助成金の規模が大きく、研究全体が大きく進みました。私自身の専門分野は有機化学ですが、医学を専門とする先生方から共同研究のご協力を得られたことも、大きな後押しになりました。礎となる基礎研究にとどまらず、コリバクチン検査の実用化、さらにはその検査を提供する会社の設立まで実現しました。

先生の立ち上げた株式会社アデノプリベントのホームページ。会社を設立するまでには、社長を担ってくれる人材を探す苦労もあったという

今後の展望を教えてください。

今回、研究助成を受けたおかげで、「大腸がんの原因であるコリバクチンとは一体どのようなものなのか?」という自然科学的な問いに答えられましたし、コリバクチン産生菌を検出して大腸がんのリスクを予知する手法も開発できました。

これからは、皆さんが本当に知りたいこと、すなわち「どうすればがんにならないのか」、「どうすれば治療できるのか」。この予防と治療の方法論を追求したいと思っています。長い道のりですが、方針は立っています。その実現まで進めてこそ、「安心」にたどり着けると考えています。

これからも化学的根拠を礎に、がんの予防法と治療法の開発に取り組んでいく

大腸がんの原因の科学的な解明が、がんリスク予知の実現につながったことがよく分かりました。これからの新しい予防法や治療法の確立にも希望が感じられるお話でした。お忙しいなか長時間のインタビューにご対応いただき、ありがとうございました。

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