HOME > 研究者 > 植野彰規 先生 > 見守りバイタルビッグデータ収集に資する非接触・無拘束型の敷布感知警報システム開発(第2回)

ベッドシーツの下に敷く以外に、頭や足から測定する方法も開発しているのですか。

枕と足枕の電極センサシートの研究は、主に学生が進めています。

心電図のR波や咳をした時の筋電図の信号は首からも検出できるため、電極センサシートを枕カバーの下に敷けば、それらの測定が可能になります。多くの被験者に寝てもらい、その様子をカメラで撮影して、どのような姿勢でも心電図を測定できるよう、電極の形や配置距離をデザインしました。

枕シーツの下にセンサを敷き、心電図を計測している様子

さらに、頭髪や頭皮を通して眼電図を検出する研究にも力を入れています。眼電は角膜と網膜の電位差に起因して頭部・顔部に現れる電圧で、眼球運動によって大きく変化するため、レム睡眠とノンレム睡眠の区別にも使われます。これを筋電図や心拍数、呼吸数と組み合わせることで、就寝中の睡眠ステージの推定や、レビー小体型認知症の早期発見に繋げたいと考えています。

足枕に電極センサシートを敷く目的は、何でしょうか。

末期腎不全の患者さんは血液浄化のために血液透析を週に何度も行います。その最中に突然、血圧が下がることがあります。また、心電図異常や不整脈が生じやすいことも知られています。そのため、透析中に血圧と心電図を同時に計測できる装置が必要だと考えました。足枕にした理由は、透析患者の手首はシャント(動脈と静脈をバイパスで繋げて透析血を抜く装置)が埋め込まれており計測し難いことと、心臓から遠い部位の脈動を検出できれば、血圧推定の精度が高まると考えたためです。提案する手法では、下肢の脈動到達時間に加えて、脈動振幅と心拍数から平均血圧を推定しており、絶対誤差が少ない結果が得られています。

平均血圧の推定法に下肢の脈動到達時間と脈動振幅を組み込むことで、平均血圧の推定精度が向上した

足枕には2カ所の軽いくぼみを作っています。そこに両足を置くだけで、脈動と心電図を同時に計測できます。両足から心電図と脈動を検出できれば、血圧相対値の推定が可能です。

足枕シーツの下にセンサを敷き、心電図・脈動・離在床を計測している様子

最近は、在宅血液透析を推進する動きがありますね。

週に3回通院し、4時間かけて透析を行うとなると、患者のプライベートな時間が大幅に失われてしまいます。そこで、患者の自宅に透析装置を設置し、装置の操作、穿刺、状態管理などを患者自身で行う方法が注目され始めています。このとき、ベッドシーツの下の電極センサシートにプラスして、枕の上に足を置いてバイタルや体水分量の測定・記録・遠隔モニタができる装置があれば、容態急変時のリスク低減に繋がりますし、患者の不安や負担も減らせるのではと期待しています。

疾患や病状に合わせた測定項目のカスタマイズが、より広がったということですね。

測定項目が変わるたびに異なるセンサをセットするのは、手間がかかりますし、看護・介護する側の負担にもなります。そこで、シートには使用頻度の高いセンサ群を集めて統合し、測定するかしないかは後から選択できるようにするというのが、開発コンセプトです。例えばクリックするだけで「この患者さんは血圧と心電図だけでいい」「投薬の効果を確認するため咳嗽活動を追加する」等の選択が可能であれば、様々な場所やシーンで活用できるはずです。

研究には、修士学生と博士学生が参加。日々、システムの精度向上や発展を目指し、励んでいる
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