HOME > 研究者 > 菅波孝祥先生 >「スマートインスリンデバイスによる革新的な糖尿病治療戦略の開発」(第2回)

共同研究者の松元先生についてお伺いします。専門分野が違うお二人が共同研究されるようになったのは、何かキッカケがあったのでしょうか。

松元先生がグルコース応答性ゲルの開発を行っていたとき、技術補佐員として勤めていた女性が、偶然にも以前、私の研究室に勤めていた人だったのです。

当時、松元先生は既に「グルコース応答性ゲルは糖尿病の治療に活用できる」というアイデアをお持ちでしたが、先生ご自身に糖尿病の専門知識や、動物実験のノウハウはありません。そこで技術補佐員に相談したところ、彼女が私を紹介してくれたのです。

初めてお会いしたとき、私は松元先生から渡された構造式がまったく理解できませんでした。松元先生も、私が話す糖尿病の話を理解できません。それでも松元先生はこの材料に強い熱意をお持ちでしたし、私も糖尿病の研究を始めてから10年が経過し、この分野でブレイクスルーを起こしたいという気持ちが高まっていたため、共同研究を開始しました。

どこからもファンディングされておらず、どうなるか分からない研究。それでも、お互いの情熱と可能性を信じてスタートした

医工連携の共同研究を行う上で、最も苦労した事は何ですか。

一番はじめの、互いの専門分野を理解するまでの道程です。毎日のように顔を合わせて話をしましたが、最初のころは相手が使う言葉の意味すら分からず、伝えたいことがなかなか通じなくて、大変でした。その時期を乗り越えることができたのは、やはり研究者としての興味と熱意です。

5年間続けてきた現在では、以前よりも視野が広がり、できることが増えたという実感があります。実際、私ひとりではこのデバイスを作ることは不可能でした。仮に、糖尿病治療に関する何らかのアイデアを獲得しても、どこかの段階で別の専門家に「お任せ」しなければ、実用化には至りません。辛い局面は何度もありましたが、最後まで関わることができるのは、医工連携の大きなメリットだと思います。

最後に、財団へのメッセージをお願いします。

研究開始から約1年が経過したころに、カテーテルモデルを用いたマウス実験で予想以上に良いデータが得られたため、思い切ってセコム科学技術振興財団の一般研究助成に応募しました。その時点では、スマートインスリンデバイスの安全性や効果の持続性、グルコースのみに反応しているのか否かといった細部の検証ができていなかったにも関わらず、採択していただけたことに、心から感謝しています。

助成期間が4年間という長期であり、毎年の継続審査でいただける鋭いご指摘やフィードバックを一つひとつ確認していくことで、着実にステップアップしてくることができました。ぜひ、多くの方にこの制度を活用していただきたいと思っています。

研究費の他にも、多くの貴重な経験が得られるため、研究者として成長できる

医工連携チームで次々に新しいモデルを開発し、課題を克服していったスマートインスリンデバイス。実用化され、全世界に普及し、人々の健康増進に寄与することを願っています。長時間のインタビューにご協力いただき、誠にありがとうございました。

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