HOME > 研究者 > 中島友紀先生 >「健康寿命の促進を目指したロコモ・フレイル発症の機構解明とその制御法の開発」(第1回)

骨粗鬆症の治療によって骨を強くしても、筋肉の機能低下を改善しない限り、ロコモ・フレイルに陥ることは防げないということでしょうか。

ロコモ・フレイルは骨と筋肉の両方に異常をきたした状態であるため、この二つを同時に改善し、運動機能を高めることが重要です。

現在、骨を強化する薬剤は数多く開発されていますし、筋肉の量を増加させる分子も判明しています。しかし、未だに筋肉の質や機能を高める方法は発見されておらず、これまで骨と筋肉を横断的に研究する領域も存在していませんでした。骨と筋肉の間にどのような連関システムが存在し、それが骨の再構築や破綻とどのように繋がっているのか、その明確な回答が得られていないため、まずは筋肉と骨を同時に強くする分子の発見を目標に、研究を開始しました。

骨と筋肉を同時に強化する分子を発見することで、ロコモ・フレイルに対する新規治療法を探る

骨と筋肉を同時に強くする分子は、どのようにして見つけるのですか。

まず、我々は、骨と筋肉を同時に強くする創薬シーズを探索するため、本学が所有する機能既知・未知のケミカルライブラリー(約25,000化合物)を用いて細胞レベルでの大規模スクリーニングを構築しました。

25,000化合物のスクリーニングは、かなり時間がかかりそうですが……。

イメージングサイトメーターという装置を使用しました。細胞のイメージ画像を生化学的に数値化、解析することにより、顕微鏡では限界がある細胞機能解析を統計的かつ高速で行う装置です。これによって、従来は個別に解析するしかなかった生体分子の機能を、網羅的かつ客観的に比較解析できるようになったのです。

これまで「ある分子を導入すれば、このような現象が起こる」という報告は多く存在しますが、「明確に増加する・減少する」という具体的な数値を示す結果を示した論文はありませんでした。この領域においてイメージングサイトメーターが使用されたことはないため、本研究はその点においても画期的といえるでしょう。

現在、スクリーニングは進行中ですが、筋肉分化・骨芽細胞が活性化され、破骨細胞を抑制する化合物がいくつか同定されてきました。そこで、宇宙空間や寝たきり状態のような微小重力環境をつくるため、マウスを上から吊した状態で飼育する実験モデルを作成しました。力学的な環境変化により骨と筋肉がかなり弱い状態になるマウスに対して、候補ケミカルを投与したところ、マウスの筋繊維量と骨量の増加、骨芽細胞の数と機能の向上、ならびに破骨細胞の数の低下が見出されています。さらに、副作用が見受けられないことも大きな強みといえます。

微小重力モデル構築と運動器を抑制するケミカル投与実験

マウスだけでなく、ヒトの筋細胞でも実験されたそうですね。

セコム科学技術振興財団の審査員の先生からご助言をいただき、ヒト細胞でも実験を実施しました。そして、候補ケミカルは、マウスの研究結果と同様に、ヒトの筋肉細胞の分化と骨芽細胞による骨形成を促進させ、破骨細胞を抑制することが見出されています。この結果は極めて大きな成果で、私としても、マウスだけではなくヒト細胞での実験結果があれば、製薬会社の説得がしやすくなり、製剤化が進むと考えています。

ヒト細胞においても、筋肉細胞の分化、骨芽細胞による骨形成の促進、破骨細胞の抑制が確認できた
Copyright(C) SECOM Science and Technology Foundation