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食物アレルギーの抑制に関わる腸内細菌の探索とその創薬応用(第2回)

慶應義塾大学

Yun-Gi Kim

先ほど、「腸内細菌由来の代謝物」と仰っていましたが、「代謝物」というのは何でしょうか。

人の腸内には約100兆個の腸内細菌がいると言われています。その腸内細菌が作り出すさまざまな物質のことを、代謝物と呼んでいます。多くの研究によって、この代謝物が肥満やアレルギー、疾患を抑制していたり、悪化に関わっていたりするという知見が得られてきています。

そのため私も、腸内細菌が作る特定の代謝物が、アナフィラキシーの抑制に関わっているのではないかと考えました。

そこで、α-GI投与後のマウスの糞便中の腸内細菌の構成を調べてみました。すると、ある特定の腸内細菌の割合が大きく増えていることがわかったのです。

次に、無菌マウスにこの腸内細菌を定着させ、α-GIを投与すると、アナフィラキシーが抑制されるということが明らかになりました。

α-GIによって増えた腸内細菌が、何かを起こしているということですか。

はい。そのメカニズムを明らかにするために、α-GIによってどのような腸内細菌由来の代謝物が増えているのかを検証しました。その結果、α-GI投与マウスでは特定の腸内細菌代謝物が増加していることがわかりました。

そこで次に、この代謝物を投与するとどうなるかを検証したところ、アナフィラキシーの症状である体温低下が抑えられ、さらに、アナフィラキシー症状を引き起こす「肥満細胞が脱顆粒化したときに放出される化学物質」の血中濃度が低下する、ということがわかったのです。

この結果から、α-GIを投与することで特定の腸内細菌が増え、それによって作られる代謝物が、肥満細胞の活性化を抑制しているのではないかということがわかりました。

ここまでの研究結果。α-GIによって腸内細菌組成が変化し、特定の腸内細菌由来の代謝物が、肥満細胞の活性化を抑制している

そもそも、食物アレルギーはなぜ今、増えているのでしょうか。

さまざまな理由が考えられていますが、そのうちの1つが、腸内細菌の影響です。具体的には、食の西洋化が指摘されています。

例えば、工場で大量生産されている「超加工食品」と呼ばれているものばかり食べていると、それらは小腸で消化されやすいために、大腸まで届いて腸内細菌の餌になるものが供給されなくなってしまいます。

以前、古代人の糞石が見つかり、腸内細菌の構成を調べる研究が行われました。その結果、腸内細菌の多様性は現代人よりも古代人の方が高いことが明らかになりました。先ほどお伝えしたように、腸内細菌は100兆個、1000種類存在すると言われており、それぞれの菌が出す代謝物も異なります。つまり腸内細菌の種類が増えるほど、さまざまな生理機能に影響を及ぼす多様な代謝物が、腸内でたくさん作られるということです。

現代人の腸は、腸内細菌の餌となるものが減り、有益な代謝物の産生も減っているため、アレルギーが増えてしまったのだと考えられます。

「風邪をひいたときに摂取する抗生物質は、悪い細菌を殺すのと同時に、良い腸内細菌も殺してしまう」と語る金先生。腸内細菌の機能を最大限に引き出すことを目標にしている
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