HOME > 研究者 > 金倫基先生 > 食物アレルギーの抑制に関わる腸内細菌の探索とその創薬応用(第1回)

現在、国民の3人に1人が何らかのアレルギーを持っていると言われています。食物アレルギーは小児から成人まで幅広く認められ、最近では様々な食品でアレルギーが認められるようになってきました。

食物アレルギー症状として、かゆみや蕁麻疹などがありますが、中でもアナフィラキシーは、皮膚・呼吸器・消化器・循環器・神経など複数の臓器に急速に症状を引き起こし、一刻も早い治療が求められます。

人がもともと備えている腸内細菌の働きを利用し、アナフィラキシー症状を予防・軽減させたい。そう強く願いながら日々研究に取り組んでいらっしゃる、慶應義塾大学薬学部の金倫基先生にお話をうかがいました。

まずは、先生のご専門を教えてください。

もともとは微生物学が専門です。また、病原微生物に対する宿主免疫応答、腸内環境とアレルギー疾患に関する研究など、免疫学的な研究もしてきました。免疫学と細菌学の専門性を活かして、現在の食物アレルギーと腸内細菌に関する研究を行っています。

腸内細菌を創薬に結び付けるような動きは、以前からあったのでしょうか。

10年くらい前から、欧米を中心に腸内細菌を薬にしようとするバイオベンチャーが急激に増えてきました。そうした流れの中で、ちょうど私も2013年にミシガン大学で研究員として腸内細菌の研究に携わっていましたので、自分の研究成果を創薬に結び付けたいという気持ちが強くなっていったのです。

2015年からはボストンにある腸内細菌創薬のベンチャーで創薬研究をしていたのですが、アレルギー疾患に関しては、腸内細菌との関わり方がまだよくわかっていないことを実感しました。

例えば、アレルギー患者さんはこういう菌が少ないとか欠損している、この疾患を持っている人はこの菌が多い、などの相関解析は行われるのですが「実際に病気にどういう仕組みで関わっているのか」ということに関してはほとんど解明されていませんでした。

腸内細菌創薬ベンチャーでは、個々の腸内細菌の機能がまだはっきりと分かっていない段階で創薬にチャレンジし、薬として認められた成功例も出ています。ですが、私は腸内細菌の持つ機能やその作用メカニズムをもっと知る必要性を感じ、アカデミアに戻ってきました。創薬へのチャレンジと基礎研究、その両輪が大切だと考えています。

アナフィラキシーに注目した理由は何でしょうか。

アナフィラキシーは、血管が拡張することによって低血圧になって意識を失ってしまったり、ひどい場合にはショックで亡くなってしまったりする、食物アレルギー症状の中でも非常にシビアなものです。

“特定の”腸内細菌(代謝物)の曝露が行われないと、アナフィラキシー症状が強く出る

2013年に発表された論文で、このアナフィラキシーの抑制に腸内細菌が関わっている可能性が示唆されました。

すなわち、普通のマウスと、腸内細菌が全くいない無菌マウスに、OVA(Ovalbumin)という卵白を構成するたんぱく質を与えて食物アレルギーを誘導した後に両者の症状を比較してみると、腸内細菌が全くいない無菌マウスの方がアナフィラキシーの症状が強く起こり、体温が急激に低下することが報告されました。

さらに、その3年後の論文では、一部の腸内細菌の「餌」となることが知られている食物繊維をたくさん含む飼料と、食物繊維を全く含まない飼料を食べさせたマウスに、同じように食物アレルギーを誘導すると、食物繊維を摂取していないマウスの方が、アナフィラキシーの症状が強く出ることが報告されたのです。

これらのことから、“特定の”腸内細菌(代謝物)が、アナフィラキシー症状を抑えていることが強く示唆されました。

そのため、アナフィラキシーの抑制に関わるような腸内細菌を特定し、その作用メカニズムを明らかにできれば、治療に結び付けられるのではないかと考えたことが、この研究を始めたきっかけです。

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