ここまでご説明したように、感染症の治療においては、菌を直接標的としなくても、インフラマソームの活性化、特にASCのリン酸化を制御することで、病態を改善できることが確認できました。また、ASCのリン酸化及びspeck形成の段階まで進むと、インフラマソームが不可逆的なステージに入り、病理的なパイロトーシスや病態悪化を引き起こしてしまうことがわかっています。そこで、インフラマソーム応答を可逆的かつ適切な状態に留めるために、ASC Y144などASCのリン酸化部位を阻害する薬剤や、ASCをリン酸化するキナーゼを抑制する薬剤を開発したいと考えています。
現在、インフラマソームの活性化が感染病態に与える影響は世界的に注目されており、製薬企業や大学で、NLRP3受容体を標的とした阻害化合物の開発が進められています。しかし、複数の受容体を介してインフラマソームが活性化しうる感染症の場合には、この手法では対応できません。また、受容体のレベルでインフラマソーム応答を完全に阻害してしまうと、生理的な感染防御力まで失われてしまうおそれがあります。
これに対し、インフラマソームの共通分子であるASCを標的にする治療法であれば、複数の受容体を介してインフラマソームが活性化する場合にも対応可能であり、適度な防御力を維持しつつ、病態悪化を阻害できるのではないかと考えています。
もう一つは、バイオマーカーへの応用です。本研究では、私の専門である感染症を扱いましたが、脳梗塞やアルツハイマー病、その他、様々な自己免疫疾患などでもインフラマソーム活性化による炎症応答が起こることが確認されています。そこで、こうした疾病においても、血中に漏れ出してくる炎症性サイトカインやASCを測定することで、重症化を早期に予測できるのではないかと考えています。他の疾患分野では先行研究も進んでいることから、これに関しては、実現可能性は高いと見込んでいます。
助成金は、分子レベルの相互作用を調べる機器や解析用のソフトウェア、遺伝子改変マウスの作成などに使用。いずれも高額なので、潤沢な助成はたいへんありがたかった



潤沢な助成のおかげで、留学先で学んだ知識や技術を存分に生かして研究に取り組むことができた。国内の研究の発展にもつながるため、海外の大学で研鑚を積んだ研究者が多く支援されることを願っている