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感染症を重篤化させる特異的炎症の活性化機構と炎症記憶の解析およびその応用 (第2回)

旭川医科大学

Hideki Hara

今後の展望について教えてください。

ここまでご説明したように、感染症の治療においては、菌を直接標的としなくても、インフラマソームの活性化、特にASCのリン酸化を制御することで、病態を改善できることが確認できました。また、ASCのリン酸化及びspeck形成の段階まで進むと、インフラマソームが不可逆的なステージに入り、病理的なパイロトーシスや病態悪化を引き起こしてしまうことがわかっています。そこで、インフラマソーム応答を可逆的かつ適切な状態に留めるために、ASC Y144などASCのリン酸化部位を阻害する薬剤や、ASCをリン酸化するキナーゼを抑制する薬剤を開発したいと考えています。

現在、インフラマソームの活性化が感染病態に与える影響は世界的に注目されており、製薬企業や大学で、NLRP3受容体を標的とした阻害化合物の開発が進められています。しかし、複数の受容体を介してインフラマソームが活性化しうる感染症の場合には、この手法では対応できません。また、受容体のレベルでインフラマソーム応答を完全に阻害してしまうと、生理的な感染防御力まで失われてしまうおそれがあります。

これに対し、インフラマソームの共通分子であるASCを標的にする治療法であれば、複数の受容体を介してインフラマソームが活性化する場合にも対応可能であり、適度な防御力を維持しつつ、病態悪化を阻害できるのではないかと考えています。

もう一つは、バイオマーカーへの応用です。本研究では、私の専門である感染症を扱いましたが、脳梗塞やアルツハイマー病、その他、様々な自己免疫疾患などでもインフラマソーム活性化による炎症応答が起こることが確認されています。そこで、こうした疾病においても、血中に漏れ出してくる炎症性サイトカインやASCを測定することで、重症化を早期に予測できるのではないかと考えています。他の疾患分野では先行研究も進んでいることから、これに関しては、実現可能性は高いと見込んでいます。

助成金は、分子レベルの相互作用を調べる機器や解析用のソフトウェア、遺伝子改変マウスの作成などに使用。いずれも高額なので、潤沢な助成はたいへんありがたかった

一般研究助成に申請されたきっかけについて教えてください。

助成金についてインターネット検索で調べていた時に、セコム科学技術振興財団がヒットして、関心を持ちました。採択されたあとで知りましたが、平成31年度に採択された金倫基先生とは、同じ時期にミシガン大学医学部に留学した仲間です。若手の研究者を積極的に支援して下さっていることを知り、感銘を受けたことを覚えています。

採択していただいた当時は独立して間もない頃で、研究設備などを再度、一から揃える必要がありました。経済面で大きな不安を抱えていたのですが、4年間、資金不足を気にすることなく研究に専念できたことに、深く感謝しています。

面接や継続審査で印象に残っていることはありますか。

いずれも緊張はしましたが、面接官の先生方から、より良い研究に向けてひじょうに建設的な助言をいただくことができました。

特に「このような方法を使えば、治療薬の開発につながるのではないか」というアドバイスが多く、創薬への使命感が強まりました。これがきっかけとなり、ドラッグデザインを専門とする先生に、研究に参加していただくこととなりました。皆さんのご期待に応えるためにも、有効な治療薬を生み出そうと固く決意しています。

最後に、これから助成申請をされる研究者へのメッセージをお願いします。

若手の研究者や、これから研究プロジェクトを立ち上げる人の中には、かつての私のように、経済的な不安を抱えている方も多いかと思います。そのような時に強力なサポートとなってくれる助成なので、ぜひ積極的に応募してほしいと思います。

また、セコム科学技術振興財団の助成は、懐がひじょうに広く、様々なテーマを受け入れてくれます。自分がやりたいことを率直に提案できるので、多分野の先生方に参加していただき、インタラクション(相互交流)して研究を発展できればと願っています。

潤沢な助成のおかげで、留学先で学んだ知識や技術を存分に生かして研究に取り組むことができた。国内の研究の発展にもつながるため、海外の大学で研鑚を積んだ研究者が多く支援されることを願っている

インフラマソーム活性化による炎症応答が感染症を重篤化させる仕組みと炎症記憶への関わり。これらを明らかにする先生のご研究が、薬剤耐性菌や新型ウイルス感染にも有効な治療法を生み出し、安全安心な社会の実現が近づくことを心から願っております。長時間のインタビューにお答えいただき、誠にありがとうございました。

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