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健康・安全モニタリングシステム実現のための小型呼気センシング用光集積デバイスの研究開発(第2回)

九州大学

Kiichi Hamamoto

光集積回路素子の技術上の課題などはありますか。

課題としては、ナノピクセル領域の実現、センシング導波路との集積実現が残っています。

ナノピクセル領域では、解像度に優れた電子ビーム露光技術を使用しても、複数の異なるホール径(90nmおよび148nm)のナノホールを一括形成することが難しいとわかりました。このため製造方法を見直し、ホール径毎に露光工程を分割する手法により、異なるナノホール径が含まれていても、同一基板上に形成できることを確認しました。また、この手法を用いて予備的にSi基板のエッチングを行い、深さ200nm以上の良好なナノホールが形成されることも確認しました。

径の異なるナノホールの同一基板上形成結果(上) ナノホール形成予備検討(下)

今回、部品ベースのシステム実証実験まで進まれたそうですね。

はい。実証実験の流れについてご説明します。

レーザーから出た光が導波路を通過し、フォトダイオードという光を検出する部分でガスを計測します。気体があるときとないときで減衰にかかる時間が変化するため、その時間の長さから気体の濃度を測定することができます。その際、光がガスに吸収され減衰するだけではなく、光回路構成部品などの損失に起因して、光がすぐに減衰してしまい、結果としてppmオーダーの希ガスを検知できない、という課題がありました。その課題を克服するために、損失補償のための光アンプを組み込みました。

ところが、光アンプで光を増幅すると、我々の光ループ構成(つまり、光を回路内に戻す構成)が災いし、検知信号ではなく、光アンプ自体の雑音成分が増幅され発振してしまい、正確に計測できないという問題が発生していました。この現象を身近なところで例えると、ハウリングという現象と同様の現象になります。スピーカーとマイクを近づけた状態(つまり、音がループしている状態)にすると、何ら音を発していなくてもノイズがどんどん増幅され、やがてあの耳障りな大音響ノイズ(キンキン音)に至ってしまう、という現象です。この現象の“光版”が発生してしまっていました。

この問題の解決には、当時の研究室の学生が「光の偏波を回転し、雑音信号の同期を回避すればノイズの件が解決する」と、解決方法を発見してくれました。光アンプのみを使用するとノイズが増えますが、偏波コントローラーも同時に使用して光の偏波を回転することでノイズが低減でき、正確に計測できるようになったのです。

センシング導波路に光アンプと偏波コントローラーを用いてCO2を計測した実験結果

将来的にはこの光アンプと偏波コントローラーも、光集積素子として集積されます。半導体ベースの光アンプは技術として存在していますので、それを用いれば問題ありません。ただ、現在市販されているものはパワーが足りないため、実験では部品ベースのものを使用しています。このように「システム化の目処が立ってきた」というのが現状です。

この状態にたどり着くだけでも、かなりの時間を要しました。あのとき解決歩法を見つけたくれた学生には、今でもとても感謝しています。

部品ベースのシステム実証実験と研究紹介の概要について、説明していただいた学生の河崎さん。ガスなしとガスありの光の減衰にかかる時間の変化はほんのわずかだが、その違いは明確に計測できるとのこと。実験は現在も試行錯誤が続いている

今後の展望について教えてください。

実用化イメージに限りなく近いデバイスを実現し、呼気センシングシステムの実証を行いたいと考えています。現時点で実用化に際して予想される課題としては、呼気に含まれる水分、計測後のセンシングシステムのリフレッシュがあります。水分対策としてフィルタの導入、手動式空気排出機構の導入といった機械構造的な機能導入を想定しており、それらの検証を通して実用化に持ち込みたいと考えています。

また、これまでのシステム上の検討結果から「系内損失と利得との差の極小化」、「1.6μm帯波長の光増幅器の構築」、この2点が課題として明らかになっており、これらも解決した上でシステム実証を行っていく予定です。

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