しかし、現状の船舶を利用した観測には課題があります。最大の難点はリアルタイム性の欠如です。海洋調査船は一日動かせば高いもので数百万円ものコストがかかります。現在の海上保安庁のシステムは世界で最も高い観測頻度ですが、最も測定頻度の高い地点でも2カ月ごとにしか測定できていません。今以上に頻度を上げることはコスト的に困難であり、海溝型地震が発生した時、場合によっては「数ヶ月前の情報」をもとに、さまざまな判断をしなければいけなくなります。船舶での観測は、限界が来ていると言えるでしょう。
私たちの分野ではこれまでに、ブイによる観測方法も開発されてきました。ブイは無人機なので観測自体のコストは下がりますが、特殊な係留索を2〜4kmも伸ばしてアンカーに結ぶ必要があり、準備だけで数億円かかります。設置ができても、大型船と接触して壊れたり、行方不明になったりすることが珍しくありません。また、ブイは海上で移動しながら測定できないため、精度面での問題もあります。
そこで本研究では、「第三世代の海面プラットフォーム」の構築に取り組みました。現状の課題を解決するためには、安価で、高頻度測定が可能で、海上での移動能力を持つ観測機が必要です。これらの条件を満たすのが、本研究のテーマであるUAV(Unmanned Aerial Vehicle)です。
UAVとは無人飛行する航空機の総称で、一般的にはドローンと呼ばれます。ドローンと聞くと、プロペラで飛ぶマルチコプタータイプをイメージされると思いますが、マルチコプターは飛行時間が短いため外洋では使えません。海洋観測に適したUAVはウイングタイプ(固定翼型)です。固定翼型はさらに、地上から離陸するタイプと、水面から離水するタイプに分けられます。離水するタイプを製造している企業は、世界でも、本研究の共同開発者である企業と、もう1社程度しかありません。

地震学は、特に高い測定頻度が望まれる分野の1つ。地震の直前・直後の変化を捉えるため、必要があればいつでも測定現場に向かえるようにしたい